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【JID連載③】アイルランド、国民投票で同性婚合法に~若年層向けキャンペーンから学ぶこと~(2015/5/24)

 
「”ニュースの深層”を徹底解説」するウェブメディア、Japan In-Depth(ジャパン・インデプス)にて連載記事を持たせていただいています。【齋藤実央のシティズンシップ論考】というタイトルで、ヨーロッパが抱える移民などの問題について、わたしが研究している市民権(シティズンシップ)の観点から考察していきます。
(ブログへの転載許可をいただいています^^)
 
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[齋藤実央]【アイルランド、国民投票で同性婚合法に】~若年層向けキャンペーンから学ぶこと~
投稿日:2015/5/24
記事リンク:http://japan-indepth.jp/?p=18460
※誤解を招く表現があったため、内容を一部訂正させていただきました。
 
今月22日、アイルランドで、同性婚の解禁に向けた憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。結果として、賛成票(約62%)が反対票(約38%)を上回り、アイルランドは「多数決」により同性婚が認められた世界で最初の国となった。同国では、2011年から、同性カップルに結婚とほぼ同等の社会的権利・責任を付与するシビル・パートナーシップ制度が導入されていたが、今回の国民投票の結果により、同性同士の結婚そのものが認められる。
 
なお英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)では、すでにイングランドとウェールズ(2013年)、そしてスコットランド(2014年)でのみ、同性カップルに結婚の権利を認める法案が可決されている。
 
さて、日本では先日の「大阪都構想」をめぐる住民投票結果を受けて、「シルバーデモクラシー」、つまり少子高齢化社会において、若年層よりも高齢層の意見の方が色濃く政治に反映される状況を指摘する声が上がっていた。今回アイルランドで行われた国民投票は、世代別の投票率がまだ発表されていない(全体の投票率は約61%だった)ものの、同世代に投票を促す若年層有権者による働きかけは、日本でも参考になる部分があるかもしれない。ここでは、BeLonG Toというユースグループが中心となって展開したキャンペーンについて簡単に共有したい。
 
BeLonG Toは、LGBT(L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシュアル、T=トランスジェンダー)を自称するアイルランドの若者のための組織だ。今回の国民投票で、同性婚解禁に向けて「YES」(憲法改正に賛成)と投票するよう、”BeLonG To YES”というキャンペーンを通じて若年層に働きかけた。
 
このキャンペーンには、National Youth Council of Ireland(以下NYCI)をはじめ、子どもの権利や若者の社会参加促進などをミッションとするアイルランド国内の14のユースグループが賛同。同キャンペーンの一環で電子リーフレットや動画が作成され、「今回の国民投票がアイルランドの歴史にとって重要な理由」、そして「結婚の平等がLGBTの若者にとってもそうでない人にとっても大切である理由」をシンプルな言葉で伝え、若年層(メインターゲットは18~25歳)のみならず彼らの親世代に対しても広く同性婚への理解を求めた。
 

Photo from #BeLonGToYES – BeLonGTo Professional
 
また、NYICのウェブサイトでは、これまで選挙で投票経験のない若者のために「投票所に着いてからの簡単な6ステップ」という記事が公開された。アイリッシュ・タイムズの取材に対し、NYICの副代表である学生は次のようにコメントしている。「この国民投票は、アイルランド全土の若者に対して、彼らが平等に価値を認められているという強いメッセージを届け、他者への敬意を高め、ホモフォビア(同性愛嫌悪)を減らす機会だ」。賛成票が過半数を上回るという結果を受けて、当キャンペーンの賛同団体はそれぞれに喜びの声を上げている。
 
今回のアイルランドにおける若年層有権者向けのキャンペーンから学べるのは、まずは投票行為自体のハードルを下げること、また投票結果が自分たちの将来にどのような影響与えるのかを明確に伝えること、そしてそのために、若年層にリーチできるネットワークを持ったユースグループが互いに連携し、統一されたメッセージをシンプルに拡散する重要性だと言えよう。世代間の対話を促しながら、「自分たちの手で社会に良い変化をもたらしたい」というポジティブなうねりを生み出すことが、シルバーデモクラシーを打ち破る一つの鍵なのではないだろうか。
 

【JID連載②】欧州の「インクルーシブ」教育とは~移民受け入れに備える日本が学べること(2015/5/3)

 
「”ニュースの深層”を徹底解説」するウェブメディア、Japan In-Depth(ジャパン・インデプス)にて連載記事を持たせていただいています。【齋藤実央のシティズンシップ論考】というタイトルで、ヨーロッパが抱える移民などの問題について、わたしが研究している市民権(シティズンシップ)の観点から考察していきます。
(ブログへの転載許可をいただいています^^)
 
☆これまでの連載記事
【第1回】欧州で移民排斥の極右政党台頭~テロと経済状況悪化が背景に~(2015/3/26)
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[齋藤実央]【欧州の「インクルーシブ」教育とは】~移民受け入れに備える日本が学べること
投稿日:2015/5/3
記事リンク:http://japan-indepth.jp/?p=17898
 
移民の増加により、民族的、文化的多様性が増している欧州では、「統合(Integration)」がますます大きな共通課題となっている。しかし、各国の教育政策に目を向けてみると、その実践方法は様々だ。親の出身国で生まれ育ったのち、移民として新しく第三国で暮らすことになった子どもたちは、学校の授業に付いていけず、疎外感を抱くケースも多い。その大きな要因の一つが、言語の壁だ。本記事では、フランスとイギリスの学校教育における言語的マイノリティの生徒へのアプローチを比較してみたい。
フランスでは、「市民(シティズンシップ)」の概念は必ずしも人種や出生時の国籍と同義ではなく、移民の親のもとに同国で生まれた子どもでも、18歳になった時点でほぼ自動的にフランスの市民として認められることになる。その代り、「フランス共和国の原則の尊重」が義務とされており、政府はフランス語の十分な運用能力も重要な条件の一つとして強調している。
 
学校教育において、フランス語を十分に話せない移民の生徒は特別クラスに分けられ(日本でも今年公開されたフランス映画「バベルの学校」に出てくる「適応クラス」がその例だ)、そこで約1年間フランス語を身に付けてから通常クラスに移る仕組みになっている。
 
この方法は、子どもたちの民族的、文化的アイデンティティを保持できるという面がある一方、通常クラスの生徒とは「分離」されてしまうことで「よそ者」だと自覚せざるを得ないというデメリットもある。また、特別クラスには非ネイティブ・スピーカーの生徒が集められることから、ネイティブ・スピーカーである生徒たちとの実践的なコミュニケーション機会に欠けるうえ、生徒同士の良好な関係を築きにくいという指摘もある。
 
一方イギリスは、いわゆる「不文憲法」国家であり、「市民」の法律上の概念は複雑かつ曖昧だ。2002年に制定された「国籍、移民及び庇護法」によると、「イギリスに関する知識と言語能力」が新しく市民となるうえでの義務として挙げられている。
 
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[写真] 筆者が訪れたイギリスの公立小学校。クラスの半数が、中東やアフリカなど他国から移住してきた生徒。
 
過去のシティズンシップ政策においても言語能力の重要性が強調されているものの、学校教育を通じた公的サポートについては触れられていない。事実、移民の子どもたちのための特別クラスは基本的に設けられていないため、移民の子どもたちも通常クラスで授業を受け、平日の夜や週末にチャリティ団体によって開かれる「補修学校」などで言語のハンデを埋めるというケースがほとんどだ。
 
フランスのケースと比較すると、他の生徒たちと「分離」こそされていないものの、十分に英語を理解できないまま「物理的統合」をされているにすぎないため、授業を理解できず学習に遅れを取り、結果的に社会的排除に繋がるリスクを孕んでいる。
 
このように、移民の子どもたちへのサポートは、言語教育ひとつを例に取っても課題が多いものの、効果が期待される実践例もいくつかある。たとえば、比較的移民受け入れの歴史の浅いフィンランドの学校では、身体を動かしながら学べる美術、体育、音楽などの授業は通常クラスの生徒と一緒に学び、言語習得のレベルに合わせて他の科目の授業にも徐々に参加していく、というアプローチが試されている。また、グループワークを通じて生徒が共に教え合う協働学習の持つ可能性も、各国であらためて注目されている。
 
「分離」でも「同化」でもない、多文化共生社会における“インクルーシブ(包摂的)な教育”の追求は、これからも続いていくであろう。日本も、欧州各国が経験してきた課題や成功例から学び、移民受け入れの議論の中で生かしていかなければならない。
 

【JID連載①】欧州で移民排斥の極右政党台頭~テロと経済状況悪化が背景に~(2015/3/26)

 
「”ニュースの深層”を徹底解説」するウェブメディア、Japan In-Depth(ジャパン・インデプス)にて連載記事を持たせていただくことになりました。【齋藤実央のシティズンシップ論考】というタイトルで、ヨーロッパが抱える移民などの問題について、わたしが研究している市民権(シティズンシップ)の観点から考察していきます。こちらのブログに転載する許可をいただきましたので、更新され次第(月1回を予定)随時ご紹介します。
 
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[齋藤実央]【欧州で移民排斥の極右政党台頭】~テロと経済状況悪化が背景に~
投稿日:2015/3/26
記事リンク:http://japan-indepth.jp/?p=16709
 
欧州諸国では、今年に入って起きたイスラム過激派による連続テロ事件を契機に、武装グループによるテロへの不安が高まり、(特にイスラム系)移民に対する排斥傾向が強まっている。それに伴い、各国で躍進しているのが、移民受け入れに異議を唱える極右政党だ。
 
たとえばフランスでは、反・欧州連合(EU)や移民排斥など極端な思想を掲げる極右政党、国民戦線(FN)。同党は、今月22日に行われたフランスの県議会議員選挙の第1回投票で、国民運動連合(UMP)を中心とした保守系政党連合に続く得票率(約25%)を獲得した。イギリスで支持を伸ばしているのは、EUからの離脱と移民受け入れの凍結を主張する英国独立党(UKIP)。「他のEU諸国からの移民の増加により職を奪われた」ことに不満を覚える低所得層を中心に支持を集めている。英調査機関YouGovが今月21日に発表した世論調査結果によると、同党の支持率は労働党(32%)、保守党(29%)に続き第3位(18%)となっており、今年5月に行われる下院総選挙では獲得議席数を大幅に伸ばすのではないかと注目を集めている。
 
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[写真] わたしの通うヨーク大学で行われた、学生による政党別討論会。この時期、総選挙関連のイベントが多数開催されている
 
テロへの不安に加え、経済状況の悪化や失業率の増加など国民の不満が高まる中で、それらの受け皿となり極端なナショナリズムを打ち出す極右政党が各国で支持を広げるのは、自然な流れと言える。しかし、移民を不満のはけ口にするだけでは根本的な問題解決にはならない。以下、今後日本において移民受け入れについて議論されるうえでもヒントになり得る、欧州で現在進行中の三つの課題を挙げたい。
 
まず、「誰を市民(シティズン)と定義するのか」。これまで市民とは、国家という枠組みの中で考えられてきた概念だが、グローバリゼーションの進展で人の移動が頻繁になっている今日において、「市民=国籍保持者」と一元的に捉えることは困難だ。たとえば、二重市民権(外国籍を持つ移民夫婦の間に生まれた子どもに、出生国の市民権も与えられる場合等)を持つ人々が増加し、またEUのように超国家的な市民権も創設されるなど、事態は複雑化している。市民/非市民の境界線は、どう引くべきだろうか?
 
次に、「どこまで市民権(シティズンシップ)を認めるのか」。先に述べたとおり、多重市民権が発展し、市民という概念が複雑化している現在、「誰にどういった経済的・社会的・政治的権利が付与されるべきか」という問題が未解決のまま残されている。ここでは、誰もが普遍的に持っているとされる「人権」との関係も論点となる。日本における外国籍の人々への参政権付与をめぐる議論にも繋がるポイントだろう。
 
そして、「民族的・文化的マイノリティをどう社会に包摂(インクルージョン)していくのか」。この課題は、多文化社会において重要であると同時に、複数のジレンマを含んでいる。たとえば、国家としての統一性を保持しつつ、マイノリティのアイデンティティ(たとえば母語など)を維持するためにどうバランスを取るべきか。また、彼らの権利を守るために、分離/統合どちらの教育プログラムが適当なのか(または中間策があるのか)など、欧州各国で模索が続けられている。
 
日本では、労働力確保という文脈で「移民受け入れ」が話題になることが多いが、上に挙げたとおり、シティズンシップ、社会的包摂という観点から整理されるべき課題は山積している。日本も近い将来直面するであろう移民問題に、欧州が今後どのようなアプローチを取っていくのか注視していきたい。
 
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