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日本の大学教育改革と「サービスラーニング」導入状況

 
いま執筆中の修士論文でわたしがテーマに据えている「サービスラーニング」
日本でも、カリキュラムに導入する大学が少しずつ増えてきているようですが、全体像が把握しづらい(導入している大学数とか・・・)ので、自分用のまとめとして、文部科学省によるGP事業を中心に実践例をリストアップすることにしました。
 
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Photo from tiffanyhuang.com
 
■サービスラーニングとは?

教育活動の一環として、一定の期間、地域のニーズ等を踏まえた社会奉仕活動を体験することによって、それまで知識として学んできたことを実際のサービス体験に活かし、また実際のサービス体験から自分の学問的取組や進路について新たな視野を得る教育プログラム。
 
サービスラーニングの導入は、①専門教育を通して獲得した専門的な知識・技能の現実社会で実際に活用できる知識・技能への変化、②将来の職業について考える機会の付与、③自らの社会的役割を意識することによる、市民として必要な資質・能力の向上、などの効果が期待できる。

中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」用語集p.38) 
 
一般的な例でいうと、
大学での講義(前期)+地域でのボランティア活動(夏季休暇)+振り返り(後期)
というような形で、カリキュラムの一環としてボランティア活動が行われ、単位も付与されるという教育プログラム。
 
1950~60年代のアメリカの市民権運動、学生運動にルーツを持ち、1990年代の「国家及びコミュニティ・サービス法(National and Community Service Act)」制定や「キャンパス・コンパクト(Campus Compact)」という連合体設立以降、アメリカの多くの大学でサービスラーニングが導入されるようになりました。
 
なお日本では、1999年に国際基督教大学(ICU)で初めて導入されました。
 
■政府による「サービスラーニング」の支援
日本では、政府主導でサービスラーニングを導入してきたというよりは、すでに大学独自のカリキュラムとして実践されている取り組みに対して、政府が大学教育改革の一環として注目、支援してきたという流れのようです。
以下、関連する答申や事業について、時系列でメモしておきます。
 
◎中央教育審議会答申(平成14年7月29日)
「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」

今日,いじめ,暴力行為,ひきこもり,凶悪犯罪の増加など青少年をめぐり様々な問題が発生し,深刻な社会的問題となっている。こうした問題の背景には,様々な要因が考えられるが,思いやりの心や社会性など豊かな人間性が青少年にはぐくまれていない現実とともに,他者を省みない自己中心的な大人の意識や生き方,さらには様々な社会的課題に対し行政だけでは適切に対処できないという状況等が深くかかわっている。
 (中略)
 中央教育審議会では,こうした認識に立って,諮問事項について検討し,「奉仕活動・体験活動」が,我々が直面する問題を解く糸口となると考えた。「奉仕活動・体験活動」は,人,社会,自然とかかわる直接的な体験を通じて,青少年の望ましい人格形成に寄与する。

 
この答申の中で、「18歳以降の個人が行う奉仕活動等の奨励・支援」の例としてサービスラーニングが挙げられています。
 

大学,短期大学,高等専門学校,専門学校などにおいては,学生が行うボランティア活動等を積極的に奨励するため,正規の教育活動として,ボランティア講座やサービスラーニング科目,NPOに関する専門科目等の開設やインターンシップを含め学生の自主的なボランティア活動等の単位認定等を積極的に進めることが適当である。

 
ただし、「単位は与えないが,サービスラーニング・プログラムの一環として位置付けられるもの」として
 
(1)大学が公的に行う諸外国におけるワークキャンプ
(2)学生のクラブ活動として行っているユネスコクラブのスタディーツアー,ワークキャンプ,点訳サークルの活動 等
 
が参考事例として挙げられており、ボランティア活動との明確な違いは認識されていない印象を受けます。
 
◎文部科学省GP事業

文部科学省では、国公私立大学を通じて、教育の質向上に向けた大学教育改革の取組を選定し、財政的なサポートや幅広い情報提供を行い、各大学などでの教育改革の取組を促進するため、「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」及び「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」を実施しています。
 平成21年度からは「大学教育・学生支援事業」のテーマA「大学教育推進プログラム」において大学教育改革の取組を推進しています。

(リンク:http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/gp.htm
 
※ただし、「平成22年11月に実施された行政刷新会議の事業仕分けにより、当時実施されていた「大学教育・学生支援推進事業」が「大学の本来業務であり、このような補助を行うことは認められない」として、「国の事業として廃止」との評価を受けた」(「国公私立大学を通じた大学教育改革の支援に関する調査検討会議」平成25年8月30日まとめpp.1-2より)
 
GP事業とは、大学教育改革の一環で、各大学(短期大学、高等専門学校含む。以下同じ)が自ら大学教育に工夫を凝らした「優れた取組(Good Practice=GP)」で他の大学でも参考となるようなものを公募により選定する文部科学省の事業です(詳しくはこちら)。
 
以下、GPとして過去に選定された取組のうち、サービスラーニングだけを拾ってみました(漏れがあればぜひ教えてください)。
 
(1)特色ある大学教育支援プログラム(特色GP):平成15~19年度
 ・女子美術大学「美大におけるサービス・ラーニングの実践」(平成16年度)
 
(2)現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP):平成16年~19年度
・立命館大学「地域活性化ボランティア教育の深化と発展」(平成17年度)
 
・関西国際大学「大学、住民及び行政等の協働と地域活性化-シニア学生受入モデルとサービスラーニングモデルの開発-」(平成18年度)
 
・新見国立短期大学「地域のニーズに応える看護専門職養成-在宅高齢者支援プログラムとサービス・ラーニング-」(平成18年度)
 
(3)質の高い大学教育推進プログラム(教育GP):平成20年度
・日本福祉大学「協働型サービスラーニングと学びの拠点形成-NPOとの連携による地域貢献学習を導入した自己発見と学びの展開-」(平成20年度)
 
・関西国際大学「初年次サービスラーニングの取組-学士課程における複合的・重層的サービスラーニングの展開-」(平成20年度)
 
(4) 大学教育・学生支援推進事業(大学教育推進プログラム):平成21~22年度
・山梨県立大学「課題対応型SLによる公立大学新教育モデル」(平成22年度)
 
◎GP以外の大学教育改革事業
(1)大学教育の国際化推進プログラム
・国際基督教大学「国際サービス・ラーニングの展開と連携構築 -実践型国際教養教育のアジア・アフリカネットワーク形成」(平成17年度)
 
(2)新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム
・上智短期大学「サービスラーニングによる学生支援の総合化-ライフデザインと社会人基礎力の養成-」(平成20年度)
 
上記以外でも、サービスラーニングを導入している大学はあります。たとえば、
・筑波大学人間学群「サービス・ラーニング」 
・日本とインドネシアの6大学(愛媛大学、香川大学、高知大学、ガジャマダ大学、ボゴール農業大学、ハサヌディン大学)が協働して実施するプログラム「SUIJIーSLP」など。
 
ただ、サービスラーニングに関する全国的な調査が今のところないため(ボランティアに関する調査は複数存在します)、主な事例を把握するために文部科学省による選定取組をリストアップしました。
 
◎中央教育審議会答申(平成24年8月28日)
「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」
 

我が国においては、急速に進展するグローバル化、少子高齢化による人口構造の変化、エネルギーや資源、食料等の供給問題、地域間の格差の広がりなどの問題が急速に浮上している中で、社会の仕組みが大きく変容し、これまでの価値観が根本的に見直されつつある。このような状況は、今後長期にわたり持続するものと考えられる。このような時代に生き、社会に貢献していくには、想定外の事態に遭遇したときに、そこに存在する問題を発見し、それを解決するための道筋を見定める能力が求められる。

とあり、そのための能動的学修(アクティブ・ラーニング)の例として「インターンシップやサービス・ラーニング、留学体験といった教室外学修プログラム等の提供が必要」という記述が見られます(p.10)。
また、「地域社会・企業等」と大学との連携という文脈でも、「サービス・ラーニング、インターンシップ、社会体験活動や留学経験等は、学生の学修への動機付けを強め、成熟社会における社会的自立や職業生活に必要な能力の育成に大きな効果を持つ」と触れられています(が、どちらかと言えばインターンシップの重要性が強調されています)。

◎今後のサービスラーニングの発展

同じ「サービスラーニング」という名前であっても、大学によりそのカリキュラム内容には差異があり、また「サービスラーニング」と掲げていなくても類似するプログラムを実践しているところはあると思います。
 
そのため、日本におけるサービスラーニングの実態を把握するのがなかなか難しいのですが(だからこそ、修士論文のテーマとして選んだのですが)、オンラインでいくつか日本の先生による論文を読むことができたので、リンクを貼らせていただきます(もし、何か問題があればご指摘ください)。
 
・桜井政成「「地域活性化ボランティア教育の深化と発展」:サービス・ラーニングの全学的展開を目指して」(立命館高等教育研究第7号pp.21-49、2007年)
 
・武田直樹「日本の大学教育におけるサービスラーニングコーディネーターの現状と課題」(つくば学院大学紀要第6集pp.119-131、2011年)
 
英米の学者による論文を読むと、「サービスラーニングは、単に“良いこと”をするボランティアではなく、社会変革を促すような政治的側面も視野に入れて発展するべきだ」という主張も見られますが、まだ日本では「ボランティアの延長」または「労働市場のニーズに合った人材を育成するためのキャリア学習」という側面が強いように感じます(その辺りを学生対象にリサーチし、分析するのがわたしの修士論文のメインテーマです)。
 
とは言え、日本におけるサービスラーニングの歴史はまだ15年ほどで、実践例も多くないのが現状。今後社会の変化と共にどのように発展していくのか、注目していきたいと思います。