Derwent_College

わたしが英国・ヨークで「地球市民教育」を研究するワケ

 
「実央って、イギリスに留学して何を勉強するの?」
と、良く聞かれるので、ブログに書いてみようと思います。
 
わたしは、ヨーク大学の“MA in Global and International Citizenship Education”という修士課程に在籍することになっています。日本ではまだあまり耳慣れないかもしれませんが、「地球市民教育(もしくはグローバル市民教育)」と呼ばれることが多いです。くわしい内容については、後で書きたいと思います。
 
■地球市民教育を学ぼうと思った背景
 
学生時代、わたしはSave the Children JAPAN(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)という国際NGOにユースメンバーとして2年半在籍し、「子どもの権利」について同世代の人に啓発する活動などに携わっていました。
 
大学卒業後に入社した日本赤十字社では、青少年・ボランティア課に配属され、10~80代の幅広い年齢層のボランティアさんに対するリーダーシップ研修などを担当。後から聞いたところ、学生時代の経験を踏まえて配属してもらえたようです。
私は特に、高校生や大学生を対象としたユース(青少年)教育に力を入れたいと考えていましたし、彼らと一番年齢の近い立場でもあったので、研修プログラムの企画や、海外の赤十字社が主催する国際交流キャンプに日本の大学生を派遣する際のサポートなどを主にさせてもらっていました。
 
研修初日は自信がなさそうだった大学生が、3~4日間のプログラムを終えてイキイキとした表情を見せてくれたり、海外経験が全くなく、口数も少なかった高校生が、とても頼もしくなってマレーシアから帰ってきてくれたり。人材育成というのは、すぐに結果が出るものではありませんが、それでも「人の成長をダイレクトに感じられる」仕事でやりがいを感じていました。
 
一方で、年間の事業スケジュールがパンパンに詰まっているので、なかなか研修の内容を見直すことは難しく、結局今年も昨年を同じプログラムを繰り返す・・・という忙しないサイクルに疑問も感じていました。また、異動が2~3年に一度と結構頻繁なので、長期的なスパンでユース教育を考えることが難しい状況でもありました(結果、わたしも2年で異動となりました)。
 
「グローバル/ローカルな課題解決に貢献できるユースを育てるには、どんな教育手法が効果的なのだろう?」
「赤十字以外の団体は、どんな研修ノウハウを持っているのだろう?」
「ほかの国では、もっと進んだ取り組みがあるのではないか?」
 
もっと勉強したいと思ったわたしは、入社3年目に会計課へ異動となったあとも、休日を利用して教育関係の文献を読み漁ったり、他団体(開発教育協会日本YMCAなど)の研修に参加したりしていました。
 
そうするうちに出会ったのが、イギリスで研究が盛んな「地球市民教育」という概念でした。
 
■地球市民教育とは?
 
「地球市民教育(Global Citizenship Education)」とは、簡単に言うと「地球規模の課題について学び、考え、解決のために自ら行動できる市民を育てる参加・体験型学習」のこと。日本では、そもそも「市民」という概念があまり身近なものではないのでわかりづらいかもしれませんが、イギリスでは“Citizenship”(=市民教育)という科目がナショナル・カリキュラムに組み込まれており、①責任ある社会的行動、②地域社会への参加、③民主社会の知識・技能の習得・活用が主な構成要素となっています。
 
グローバル化が進む近年では、一人ひとりの行動が国境を越えて影響を及ぼすため、「市民」がイギリス国内だけで収まる概念としては捉えにくくなっており、地球に住む一市民としての意識を育てる「地球市民教育」という考え方にシフトしつつあります。
 
地球市民教育を通じて、子どもたちが具体的に何を学び、どんな力をつけることが目標なのか?
これは、Oxfamのウェブページに簡潔にまとまっているので、そこから引用します(原文はこちら)。
 
【知識と理解】
・Social justice and equity (社会正義と公正)
・Diversity (多様性)
・Globalisation and interdependence (グローバリゼーションと相互依存)
・Sustainable development (持続可能な開発)
・Peace and conflict (平和と対立)
 
【スキル】
・Critical thinking (クリティカル・シンキング=批判的思考法)
・Ability to argue effectively (効果的に議論する能力)
・Ability to challenge injustice and inequalities (不正と不平等に立ち向かう能力)
・Respect for people and things (人や物に対する敬意)
・Co-operation and conflict resolution (協働と紛争解決)
 
【価値と態度】
・Sense of identity and self esteem (アイデンティティと自己肯定意識)
・Empathy (共感)
・Commitment to social justice and equity (社会正義と公正への関与)
・Value and respect for diversity (多様性の評価と尊重)
・Concern for the environment and commitment to sustainable development (環境への配慮と持続可能な開発への関与)
・Belief that people can make a difference (人々が変化を起こせるという信念)
 
■「ダイバーシティ」と「アイデンティティ」
 
わたしが地球市民教育に特に惹かれたのは、「ただ知識として学ぶだけでなく、行動に繋げるための教育」であり、「アイデンティティや自己肯定意識を育む」という点です。
 
赤十字やYMCAのプログラムで志あるユースにたくさん出会ってきましたが、彼らにとって「地球規模の課題」はあまりに大きく、知れば知るほど自分の無力さを感じ、結局どう行動したらいいのかわからないまま就職活動の波に飲み込まれ、自信を失っていく・・・という子たちをイヤというほど見てきました。
 
おそらくそれは、「自分自身と向き合う機会」がないまま、エントリーシートの書き方やら面接の攻略法やら「企業から内定を獲得するための小手先のテクニック」を教えることが中心になってしまっている日本のキャリア教育にも問題があるのでは、とわたしは思っています。
 
また、日本で「グローバル人材育成」と言うと「小さい頃から英語を身に付けよう!」といった方向に話が行ってしまっているように感じます。
でもわたしが追求していきたいのは、「グローバルな視点で『外の世界』と関わりながら、『内の世界』とも向き合って自分自身の役割や存在意義を見出せる」ような人材育成・キャリア教育のあり方。地球市民教育の考え方は、そのヒントになりうると考えています。中でも、自分の「アイデンティティ」を意識したうえで、「ダイバーシティ(多様性)」を尊重していくためにはどのような働きかけが必要か?ということに関心があります。
 
■将来、実現させたいなと思うこと。
 
☆地球市民教育をベースとした、高校生・大学生向けキャリア・ライフデザインのワークショップの開催。
☆グローバル教育・ユース育成に注力しているNGOやNPOと協働した研修プログラムの開発。
☆もっと先の将来は・・・本の執筆や、大学で教鞭を取ること。
 
1年後、全く言っていることが変わっているかもしれないけれど(笑)、現時点での野望です。
 
イギリスは、政権交代(労働党→保守党)によって教育分野に配分される国の予算が減少しているなど、研究するにあたってベストな状況ではないと聞いているのですが・・・
ヨーク大学は地球市民教育の研究が特に進んでいること(論文の引用件数も多い)、ヨーク自体がフェアトレード・シティであることなどから、ここで1年間過ごせることを楽しみにしています。
 
Derwent_College

http://www.geograph.org.uk/photo/1556181

 
■地球市民教育の基本情報
 
もし、ちょっと地球市民教育に興味あるかも、という方のために。
基本的な情報を得られるウェブサイトを下に載せておきますね!
 
【日本語】
市民教育|世界をみる|開発教育協会
【地球市民を育む教育】トップページ|常磐大学
イギリス 多様な教育と子どもたち 第15回 シティズンシップ・エデュケーション(市民教育)|CHILD RESEARCH NET
 
【英語】
National curriculum in England: citizenship programmes of study – Publications – GOV.UK
Global Citizenship | Oxfam Education
Education for ‘Global Citizenship’|UNESCO
UN Global Education First Initiative – United Nations Secretary General’s Global Initiative on Education – 3. Global citizenship
 
【追記(2015年1月)】
渡英後、研究の参考にしたウェブサイトなど、シティズンシップ教育の関連リンクをまとめました→【随時更新】英国のシティズンシップ教育(市民教育)関連リンク集
 
いよいよ、今月22日に渡英です。現地からもいろいろレポートできるように頑張りまーす!