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「違い」から生まれる対立を解決するには?【前編】

 
イギリス・ヨークの大学院で市民教育(シティズンシップ教育)を学び始めてから、半年が経ちました。
1月から春学期(Spring term)が始まり、授業数が一つ減ったこと、また実践を通じて市民教育・グローバル教育に触れる機会を作りたいと思ったことから、今月(2月)よりグローバル教育センター(Centre for Global Education York)※でインターンを始めました!主に、SNSを通じた情報発信と、学校でのワークショップ運営サポートが主な内容です(日本にいた時に、パラレルキャリアとしてやってきたことがイギリスで生かされるとは!)。
 
※グローバル教育センターとは?
1982年設立。市民教育やグローバル教育をテーマに、教員向けの研修や学校でのワークショップを実施している、ヨーク拠点の教育NGO。以下の8つをメインコンセプトとしています。

• Values & Perceptions(価値と視点)
• Human Rights(人権)
• Sustainable Development(持続可能な開発)
• Interdependence(相互依存)
• Conflict Resolution(対立の解決)
• Social Justice(社会正義)
• Diversity(多様性)
• Global Citizenship(グローバル・シティズンシップ)

センターの成り立ちについてはこちら(日本語)→http://www.dear.or.jp/uk/menu01.html
 
さて、今日は初めて小学校での「マンダラ・ワークショップ」に随行させてもらったので、その内容をシェアしたいと思います☆
 
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今回ワークショップを実施したのは、Greenhill Primary Schoolという公立小学校(State school)の5年生のクラス(Year5)。男女比率はほぼ半々で、全体の人数は28人です。
以前、グローバル教育センター主催の教員研修に参加した先生からの依頼で、ワークショップを実施することになったそうです(ただし先生は当日の進行に携わらず、グローバル教育センターのスタッフが行います)。
マンダラ・ワークショップは2時間×2日間がセットになっていて、今日はその初日。翌々週に後半を行います。
 
■導入(10分)
今日のワークショップの趣旨説明。「違い」があることで生まれる問題をどう解決するか?ということを学びます。最初にスタッフのロジーナが「このクラスの中で、違う国出身の人はいますか?」と質問を投げかけたところ、半数ぐらいの生徒が手を挙げました(ヨークの学校にしては珍しく比率が高い)。イラン、パキスタン、アルジェリアなどから来ているとのこと。「僕、イタリアのクォーターだよ!」と元気に教えてくれた子も。ちなみにスタッフも出身がバラバラです(イギリス、カリブ、ウガンダ、そしてわたしが日本)。
 
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■色分けゲーム(30分)
生徒が輪になって立っている状態で、私も含めスタッフ4人が彼らの背中に丸いカラーシールを貼っていきます(黒、オレンジ、白、紫の4色×7人ずつ)。つまり、みんな自分に付いている色は見えません。そのあと、「声を出さずに」同じ色同士の人が集まってグループを作るというワーク。「話す以外にどんな方法でコミュニケーションを取ったらいいかな?」という問いをあらかじめ出しておきます。いざゲームが始まると、ヒソヒソ声で話してしまう子もいるので、「ささやくのもダメ!」と釘を刺す必要があります。
 
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無事に4グループに分かれられたところで、「話しちゃいけない中で、どうやって工夫したのかな?」と聞きます。子どもたちは、「教室に貼ってあるポスターを指さして、友達の背中に付いている色を教えた」、「同じ色の子を身振りで呼んで集めた」と答えてくれました。
 
さて、ここで背中のシールをはがして、もう一度輪になります。「今度は新しいシールを貼るから、また同じようにグループを作ってね。さっきよりも効率よく、素早くできるように工夫してみて!」と伝えます。実はこの2回目は、2人だけどの色にも当てはまらないシールが貼られる(ピンク色の四角と、銀色の星型)のですが、それはスタッフしか知りません。
 
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一度同じアクティビティをやっていたので、今度は簡単・・・なはずが、ここで問題が起こります。どのグループにも入れない生徒が2人。他の生徒に何度も背中を確認されるも、首を振られてしまい、教室の真ん中にポツンと残ってしまいました。ここで、ロジーナが聞きます。「どうしてグループに入らないの?」。すると生徒たちは「シールの色が、2人だけ違うんだ」。クスクスと笑っている子たちもいます。あぶれてしまった2人に「どんな気持ち?」と答えると、ピンクのシールの女の子は「仲間はずれみたい・・・」、銀のシールが付いた男の子は「うーん・・・わかんない」。
 
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ロジーナがここでまた問いを投げかけます。「本人たちは、他に選択肢がなかったのに仲間に入れなかった。この状態を、排除(Exclusion)と言うんだよね。じゃぁ、どうやってグループに入ったらいいと思う?何か良いアイディアはあるかな?」すると生徒たちから、「一番近い色のグループに入る。ピンクはオレンジに近いし、銀は白に似ていると思う」「人数が少ないグループに入る」「自分の行きたいところに入ればいいんじゃない?」と口々に答えました。
 
生徒が席に戻ったあと、「もし自分がさっきの2人の立場だったら、どう感じるかな?」とロジーナが尋ねると、「寂しい」「ハッピーじゃない」「みじめな感じ」と答える生徒たち。「では、実際にああいう経験をしたことがある人?」という質問にも、たくさんの手が挙がりました。ここで次のアクティビティに移ります。
 
■絵本の読み聞かせと議論(30分)
色分けゲームで体を動かしたあとは、「The Island」(Armin Greder, 2008年)という絵本をスクリーンに写し、スタッフのJZが読み聞かせをします。読む前にロジーナが生徒たちに問いかけた質問は2つ。「島民たちの反応はこれで良かったと思うか?」「この島は、住むのに良い場所だと思うか?」
 
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わたしが調べてみた限りでは、この絵本の邦訳が出ていないみたいなので、簡単にあらすじを書いておきます:
 
~あらすじ~
とある島の海岸に、何も服を着ていない、見知らぬ男が流れ着く。一体彼が誰なのか、どこから来たのか、何を必要としているのか、誰にもわからない。彼を見つけた一人の漁師が「このまま海に戻したら、彼は死んでしまう」と心配したため、島民たちはしぶしぶ島に迎え入れ、ヤギの檻の中に入れることにする。
 
島民たちは次第に、その男が食べ物と助けを必要としていることに気が付くが、教師や聖職者でさえも彼を助けなくて済む言い訳を探す。「彼に全部食べ物を食べられてしまうかもしれない」「私たちよりも安い賃金で働かせることができるのでは?」「でも厨房で彼を働かせたら、誰もうちの宿で食事をしたがらないに違いない」「どうやら彼は骨を食べるらしい」「このままでは私たち島民を殺すのではないか」― 憶測が飛び交い、次第に島全体が彼を恐れるようになる。
 
やがて、島民はその男を無理やり海に追い出すことに決める。そして、もう二度とよそ者が島を見つけて侵入することのないよう、島全体を高い壁で覆ったのだった。
 
The Island
・・・というストーリーです。無表情な「よそ者」と、恐怖や嫌悪感を抱く島民の表情が、なかなか恐ろしいイラストで描かれています。
このお話と、最初にやった色分けゲームでの学びを踏まえて、生徒たちに質問を投げかけていきます。
 
漂流してきた男と島民は、お互いの言葉が理解できない中、どうすればコミュニケーションを取れたか?
→ 生徒たちも色分けゲームの時に「話してはいけない」という制約があったことを思い出させます。「おなが空いていることをジャスチャーで伝える!」「食べ物を指さす!」などの答えが挙がりました。
 
島民たちが彼に対してしたことは、良い方法だったか?(NO、という声が上がったので)自分ならどうしたと思うか?
→ 「食べ物を分ける」「温かいお風呂に入れてあげて、服を着させる」「家でもてなす」などの反応がありました。
 
本当にその男は島民を殺してしまう危険があったと思うか?
→ これに対する生徒の反応はさまざまでした。「いつ何をするか誰にも分からない」「ヤギ小屋の中にナイフがあったら使うかも」と答えた生徒も。また、「弱っているから、そんな力はなかったと思う」「島の人たちが勝手に想像を膨らませただけ」という意見も。差別や偏見、という言葉は出たわけではありませんが、「よそ者に対する漠然とした恐怖」というのは感じ取ったようでした。
 
最後のシーンで、島の周りを高い壁で覆ったことによって、何が起こると思うか?
→ この質問は、最初ピンと来ない子も多かったように見受けられました。ロジーナが「外に出られないし、中に入って来られないとしたら?」と言葉を補うと、「休暇中、島の外に遊びに行けない」「海水や魚を採れなくなる」「島の人が病気になっでも、外のお医者さんに診てもらえない」などの答えが出ました。
 
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■ストーリーの共有(15分)
ゲームと絵本を通じて、「違いによって起こる対立とその解決」について考えてきた子どもたちに、ボランティアのマドゥが、40年前にウガンダからイギリスへ移住してきた時に経験した自分のストーリーを話します。
(背景について補足:ウガンダは1894年にイギリスの植民地とされ、1962年に英連邦王国の一員として独立。1970年代のウガンダでは軍事政権による独裁政治が敷かれ、インド系住民が多数追放されました)
 
~ストーリー~
わたしは1973年に、両親と共にイギリスへ移住して来ました。他に選択肢はなかったのです。最初はロンドンにいましたが、その後結婚し、ヨークに移りました。知り合いは周りに誰もおらず、「外国人」である自分に話しかけてくる人はいませんでしたし、こちらから挨拶をしても無視されていました。生後18ヶ月の子どもを抱えて、夫が働きに出ている間は良く一人で家で泣いていました。
 
そんなことが続いていたある日、私はある賭けに出ることを決めました。隣の家のドアをノックし、こう言ったのです。「しばらく私の子どもの面倒を見てください」。そして返事も待たずに息子を預け、私はその場を離れました。
相手は、会話も交わしたことのない人です。もしかしたら、自分の子どもがひどい目に遭わされるかもしれない。怒鳴り込んで来るかもしれない。そういう不安ももちろんありました。でも、誰も私にチャンスを与えてくれないなら、自分からチャンスを取りに行くしかない。一か八か賭けてみよう。そう思ったのです。
 
そして30分後、私は再びお隣さんを訪ねました。「うちの子は、ご迷惑をお掛けしませんでしたか?」そう聞くと相手は、「全然!すごく良い子でしたよ。声を掛けてくれれば、いつでも面倒を見ますよ!」実際、彼女はとても優しい女性だったのです。それまでは知らなかっただけで。すると翌日、彼女から「良かったら、紅茶を飲みに来ませんか?」とお誘いがありました。こうして私は、イギリスに来て初めての友達ができたのです。
 
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その年の冬、私は大量のクリスマスカードを買いました。夫は「友達もろくにいないのに、そんなにたくさんのカードをどうするつもり?」と不思議がっていました。私は「メリークリスマス」のメッセージに、夫、自分、息子の名前を添えてせっせとカードを書きました。そして、自分が住んでいるストリートにある家 一軒一軒のポストにそれを投函していったのです。数えてみたら、全部88枚ありました。そうしたら、3人がクリスマスカードの返事をくれたので、私はとても嬉しかったの!
 
私がウガンダからイギリスに来た時、誰も相手にしてくれず、一人ぼっちでした。それが今では、毎年100人以上の友達からクリスマスカードをもらうようになったのです。待っていても、誰もチャンスをくれるわけではなかった。だから私は、自分からチャンスをつかみに行ったのです。これが、私のストーリーです。
 
■ここまでのまとめ(10分)
色分けゲームで、「少しの違いが排除につながること」を体験し、解決策を探し、
絵本を通じて「排除を生み出す原因と背景」について客観的に考え、
マドゥのストーリーを通じて「排除される側の気持ち」を知る
というプロセスを辿ってきた子どもたち。
 
• どうしたら、「排除」が起こることを止められるかな?
• 私たちは一人ひとりユニークな存在で、それぞれが素晴らしい。だから、みんな違って当たり前。
• 誰とも「違う」けど、「似ている」ところもたくさんあるね。
• お互いの存在を尊重し合うことで、ハーモニー(調和)が生まれるんだね。
 
そんなことをロジーナが話し、今日最後のワークへと移ります。
 
■マンダラのアイディアスケッチ(25分)
グローバル教育センターが学校で行うワークショップでは、最後にクラス全体でマンダラ(Mandala)を制作します。
マンダラ?・・・漢字で「曼荼羅」と書けば伝わるでしょうか。日本語だと仏教の世界観を表現した絵画を思い浮かべると思いますが、英語だとヒンドゥー教をはじめさまざまな宗教で「宇宙」を表すスピリチュアルなシンボルを指すようです。
 
このワークの目的は、「自分が大切にしている/したいもの」をイメージした一人ひとりのマンダラを描き、それを全て並べてクラス全体で大きな作品(布)にすることで、「多様性(ダイバーシティ)を認めあうコミュニティ」を可視化すること。出来上がったものは、教室の壁に飾り、いつでも振り返れるようにします。
 
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まずロジーナをJZが、他の学校の生徒たちが作ったマンダラや、いろんな国の人たちが描いたデザインを子どもたちに見せます。それぞれ、基本の形(円や六角形など線対称)は同じですが、描かれているイラストや色、模様はさまざま。たくさんの例を見せることで、ルールに囚われず自由に描いていいことを伝え、自分の作りたいイメージを良く考える時間を与えます(生徒たちの目が輝いていたのが印象的でした!やはり、実際に手を動かし何かを創り出す時間が必要なんだなと感じました)。
 
イメージが膨らんできたところで、マンダラの基礎だけ印刷されている白黒印刷の紙を一人ひとりに配布します。
 
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すぐに描き始める子、しばらく考えてから取り掛かる子などさまざまでしたが、みんな生き生きと取り組んでくれました!今日(前編)は鉛筆で下書きをし、次回のワークショップ(後編)で色を付けて完成させる、という流れになっています。
 
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こうして文章にしてみたら、かなりのボリュームになってしまいましたが!グローバル教育・ダイバーシティ教育などに関心のある方にとって、何か一つでも参考になるポイントがあれば嬉しいです。わたしも帰国後は、再び教育ワークショップの企画・運営に携わりたいと考えているので、自分にとってのヒントという意味も込めて。
 
マンダラ・ワークショップの後編は、今月23日にまた学校を訪れて開催しますので、またレポートします♪
 
【追記】レポート後編もアップしました。
「違い」から生まれる対立を解決するには?【後編】 | 齋藤実央 Official Blog 【Enbook】