├Lecture

「違い」から生まれる対立を解決するには?【後編】

 
先日ご紹介した、ダイバーシティ(多様性)ワークショップ前編のレポート。
日本の学校の先生や教育系NGOのスタッフ、青年海外協力隊員として海外で活動されている方やワークショップのファシリテーションをお仕事にしている方など、たくさんの方々から反響がありました!読んでくださって、ありがとうございます。何かの参考になればうれしいです。
 
さて、今回の記事では、後編のレポートをお届けします。
 
☆前編をお読みになっていない方は、こちらからどうぞ↙↙
 
「違い」から生まれる対立を解決するには?【前編】
 
***
 
前回、Greenhill Primary Schoolの5年生クラスを訪問したのは約10日間前。前回のワークショップの時にお休みしていた生徒が2名加わり、今回は30人で行います。グローバル教育センターからはロジーナ、JZ、わたしの3名。クラスの担任・副担任(アシスタント・ティーチャー)の先生が2名、サポートに回ります。
 
■前回の振り返り(10分)
まずは、前回行ったワークショップの振り返り。ロジーナが一つひとつ質問を投げかけていきます。生徒は積極的に手を挙げるので、次々に指名して、答えを言ってもらいます(同じ生徒に偏らないように気を付ける)。
 
◎背中に貼ったシールでグループを作ったとき、どんな問題が起こったかな?
 
◎グループに入れなかった2人は、どんな気持ちがしたかな?
(ここで、10日前に行ったワークショップですが、その時の2人の顔をスタッフがきちんと覚えていて、直接質問をするのがポイント。)
(また、大人が期待するような答えを強要しない。2人のうち女の子の方は、「悲しかった」と答えましたが、前回「わかんない」と答えた男の子は、今回も「うーん…」と考え込んでいたので、ロジーナが「ハッピーだったかな?」と質問。その子は「うん」と答えましたが、それに対してロジーナは「そう考える人もいるかもしれないね。でも、排除(exlusion)されると悲しくなる人が多いかもしれないね」とフォローをしていました)
 
explanation
◎「The Island」の物語に出てきた島民と、漂流してきた男の人は、どんな違いがあったかな?そこで起こった問題と、島民の対応は何だったかな?
 
◎もしもイギリスの島全体が大きな壁で覆われたら、どんな問題が起こるかな?
(前回、「島の周りを高い壁で覆ったことによって、何が起こると思うか?」という質問に対して生徒たちはピンと来ていないようでしたが、今回は「自分たちの国が同じ状況になったら?」と考えさせる質問に自然に変えていました。
※また、一人の生徒が「島で育てられる食べ物が限られちゃう」と答えた際に、「パイナップルを普段食べる人?オレンジは?バナナは?」と簡単に手を挙げられる質問も加えることで、外から輸入しているフルーツが食べられなくなる、という日常生活に落とし込んだ視点も取り込んでいました
 
◎みんなの前で、イギリスに来たときの話をしてくれた女性の名前は覚えているかな?彼女はどこの国出身だったかな?コミュニティに参加するために、どんな行動を取ったのかな?
(ここで、前回は詳しく触れなかった時代背景も簡単な言葉で少し説明をします(ウガンダからインド系住民が追い出されたことなど)。また、ロジーナ生徒たちからの回答を踏まえながら、「多様性(diversity)や違い(difference)が問題を生み出すこともあるんだね」というまとめのコメントをしました)
 
 
■マンダラ制作の説明(10分)・作業(30分)
前回のワークショップ後半で、生徒たちは紙にマンダラ(自分にとって大切なものを文字や絵で表現したもの)の下書きを済ませています。今日は、それを基に布に直接描きこむ作業です。これが最終的に大きな一枚のキルトに貼り付けられ、クラスの壁に飾っておく形になります(下の写真は、他の学校で制作した例)。
 
DSC00715
線はフェルトペンで縁取り、大きなパーツの色塗りはパステル(布用)でやるといいよ、など説明をしたあと、各テーブルに画材を配布していよいよ作業スタート!前回お休みしていた2人には、個別で説明をします。
 
manadala_2students
 
「騒がない!」「立ち上がらない!!」と担任の先生に注意を受けながら(笑)、生徒たちはワイワイと作業に取り組みます。
mandala_all
 
ちなみに、前回の記事にも書いたとおり、このマンダラ作成のねらいは「自分が大切にしている/したいもの」をイメージした一人ひとりのマンダラを描き、それを全て並べてクラス全体で大きな作品にすることで、「多様性(ダイバーシティ)を認めあうコミュニティ」を可視化すること。最終的な作品に載せる宣言(statement)を考えるため、生徒たちが作業しているテーブルをスタッフが回り、「コミュニティの良い所って何だと思う?(What is good about community?)」と質問を投げかけ、生徒たちの意見を汲み上げます。
 
mandala_statement
☆生徒たちからは、こんなアイディアが出されました!
・友だちと楽しく遊べる。
・何か問題が起きたときに、みんなで解決できる。
・一つのチームとして、一人ひとりがベストを尽くせる。
・一人ぼっちにならなくて済む。・・・など
 
■短い絵本の読み聞かせ(15分)
さて、ここで一旦マンダラを描く作業を中断し、「TUSK TUSK」(David Mackee, 1978年)という短い絵本をスライドに映し、JZが読み聞かせをします。”TUSK”というのは、象の牙のことです。
ちなみにこの本は邦訳も出ているようです:「じろり じろり~どうしてけんかになるの」(デビット・マッキー著、はら しょう訳)
この作者は、「象のエルマー」などの絵本でも有名ですね(カラフルなパッチワークで描かれた象が主人公です)。
 
とても短いストーリーなのですが、簡単にご紹介しますね。
 
~あらすじ~
むかしむかし、黒い象たちとと白い象たちが、住んでいました。
彼らは、世界中のすべての生き物を愛していました。
ところが、お互いに憎み合うようになり、それぞれジャングルの反対側に分かれました。
ある日、黒い象たちは白い象たちを、白い象たちは黒い象たちを殺すことに決めます。
平和を愛する一部の象たちは、ジャングルの奥に逃げ込み、それ以来彼らの姿は見られなくなりました。
残った象たちは長い間戦いを続け、最後にはどちらも絶滅してしまいました。
 
tusktusk
何年かたったある日、平和を愛した象の孫たちがジャングルから出てきました。彼らはみんな、灰色の象でした。
それから象たちは平和に暮らしました。
しかし最近、小さい耳の象たちと大きい耳の象たちが、お互いをけげんな目で見るようになっています。
(おしまい)
*画像はこちらから取りました。
 
ここで、ロジーナが子どもたちに質問をします。
・どうして争いが起こってしまったのかな?
・なぜ灰色の象が出てきたのかな?
・このあと、物語はどうなると思う?
 
生徒たちは「大きな耳の象と小さな象が一緒になって、今度は中くらいの耳の象が生まれる!」
「でも鼻の長さが違ったりしたら、またケンカになるかも」
「牙の大きさとか・・・」
「しっぽの長さとか・・・」
 
そこでロジーナが、「そうだね。色とか耳の大きさとか、小さな違いがきっかけで問題が起きてしまうことがあるよね」と声を掛けます。
みんなの暮らしている世界でも、いろんな違いがあるね。信仰(faith)や領土(teritory)、言語(language)の違いは、戦争が起きてしまう理由の一つになりうるね。みんなが前回やったシールのワークショップや「The Island」の絵本でも同じように問題が起きたことを覚えているかな?何が欠けていたから、ああなってしまったんだと思う?」
 
すると一人の生徒が、「コミュニケーションが足りなかったんだと思う」と声を挙げました。
ロジーナはそれをフォローし、「その通り!コミュニケーションを取って自分の意思を伝えること、相手を理解しようとすることを大切にしないといけないね。みんなが持っている小さな違いを尊重することで、コミュニティが成り立つんだね。そのことをもう少し考えながら、マンダラを描いてみよう!」
 
※このワークを最初にやらず、マンダラ制作の途中にはさむ理由は?と後でロジーナに尋ねたところ、
・1時間通して作業の集中力を保つのが難しいので、少し手を休める時間を取るため
・ただの「お絵描き」で終わってしまわないよう、あらためてマンダラを作る理由を考えるため
だと教えてくれました。
 
■マンダラ仕上げ(30分)
いよいよ、マンダラ制作作業の最終段階。みんな「自分にとって大切なもの」を思い思いに表現しています♪
アイディアが煮詰まったり、うまく色を塗れなかったりしている子がいたら、スタッフが手を貸すこともあります。
また、「ここに書いてあるのは、家族の名前かな?」など作業中に声を掛けることで、生徒一人ひとりが描いているストーリーに耳を傾けます(中には、マンダラに込めた物語を語ってくれる子も)。
 
▼自分の国や、自然を描いたり・・・
student1
 
▼好きな歌手の名前や・・・(テイラー・スウィフトのファンだそう)
student2
 
▼家族や友だちの名前をぐるっと・・・
student3
 
▼フットボール、男の子たちに人気でした!
student5
▼前回よりも、今回の方がクラスの先生たちが積極的に関わっていたのが印象的でした。
teacher1
 
完成~~~!!!!!
 
finish1
 
finish2
 
finish3
 
無事、時間内に全員が満足のいく形で作業を終えることができました(学校の授業時間を使って行っているので、これがとても大事!)。スタッフがいくつかのマンダラをクラス全体に紹介し、「それぞれが大切だと思うものが、いろいろあるね!」とコメント。みんなのマンダラは一旦グローバル教育センターで預かり、1枚の布パネルに統合したあと、約4週間後にクラスへ返却、という流れになります。
 
■まとめ(5分)
最後に、ロジーナからコメント。
「これまでみんなで、多様性(diversity)や違い(difference)について考えてきました。これらが生み出す問題に焦点を当てるのか、それともその解決策を考えるのかによって、結果は大きく違ってきます。みんなが作ったマンダラは、1ヶ月ほどで教室に戻ってきます。それを目にするたびに、ここでみんなで考えたこと、話したことを思い出してね」
 
これでしばらく、自分のマンダラとはお別れだよ、と声を掛けると、一斉に「バイバーイ!!」と手を振った、かわいい生徒さんたちでした^^
 
***
 
さて、ここまでお読みいただいて、いかがだったでしょうか?グローバル教育やダイバーシティ教育の実践をされている方、またこういったテーマにご興味のある方にとって参考になる部分があればうれしいです。
わたしが2日間セットのワークショップに同行してみて、実践する上で大切だと思った主なポイントは以下の5つ。
 
◎一つひとつのワークをコンパクトにまとめ、生徒を飽きさせないこと。
・・・とにかくテンポが良く、無駄がありませんでした。でも、生徒が次々に手を挙げる質問の時には、どんどん指名して発言させていました。ワーク→質問→ワーク・・・と交互に時間を設けるのがポイントだと思います。
 
◎一方通行で「教える」のではなく、細かく質問を投げかけることで生徒から答えを「引き出す」こと。
・・・Educateの語源は、ラテン語で「外に導き出す」。まさにワークショップで必要なことだと思います。スタッフがコメントを出すのは、生徒から答えが出そろってから。先に大人の言葉でまとめてしまうことは避けているのが印象的でした。
 
◎どの生徒がどんな発言をしたか、把握しておくこと。
・・・たとえば前編のワークショップでグループに入れなかった生徒を覚えておいたり、まとめの段階で「さっきあなたが『コミュニケーション』という言葉を挙げてくれたように・・・」とフォローをしたり。全体に向かって話しながらも、一人ひとりをきちんと見ているよ、という姿勢を見せることが大切だと感じました。
 
◎シンプルな言葉に絞って伝えること。
・・・大人が簡単に使いがちな「差別(discrimination)」や「対立(conflict)」といった言葉を使わず、「多様性(diversity)」「違い(difference)」「問題(problems)」などの同じ言葉を繰り返し使うことで、生徒たちの理解を容易にしていると感じました。
 
◎「違い」があることのプラス面とマイナス面、両方をバランス良く伝えること。
・・・みんな違って素晴らしい!というだけでは非現実的。かといって負の部分だけを強調するのもNG。「ささいな違いで問題はすぐに起こりがちだけれど、それを解決する方法をみんなで考えよう」というメッセージを、ワーク全体を通してうまく伝えていました。
 
 
これからもわたしは、ヨーク大学修士課程で「グローバル市民教育」を理論的に研究しながら、インターン先のグローバル教育センターでワークショップや教師対象のトレーニング運営を実践的に学んでいきます。またのレポートをお楽しみに♪
 
☆グローバル教育センター(Centre for Global Education York)のウェブサイト
http://www.centreforglobaleducation.org/
 

「違い」から生まれる対立を解決するには?【前編】

 
イギリス・ヨークの大学院で市民教育(シティズンシップ教育)を学び始めてから、半年が経ちました。
1月から春学期(Spring term)が始まり、授業数が一つ減ったこと、また実践を通じて市民教育・グローバル教育に触れる機会を作りたいと思ったことから、今月(2月)よりグローバル教育センター(Centre for Global Education York)※でインターンを始めました!主に、SNSを通じた情報発信と、学校でのワークショップ運営サポートが主な内容です(日本にいた時に、パラレルキャリアとしてやってきたことがイギリスで生かされるとは!)。
 
※グローバル教育センターとは?
1982年設立。市民教育やグローバル教育をテーマに、教員向けの研修や学校でのワークショップを実施している、ヨーク拠点の教育NGO。以下の8つをメインコンセプトとしています。

• Values & Perceptions(価値と視点)
• Human Rights(人権)
• Sustainable Development(持続可能な開発)
• Interdependence(相互依存)
• Conflict Resolution(対立の解決)
• Social Justice(社会正義)
• Diversity(多様性)
• Global Citizenship(グローバル・シティズンシップ)

センターの成り立ちについてはこちら(日本語)→http://www.dear.or.jp/uk/menu01.html
 
さて、今日は初めて小学校での「マンダラ・ワークショップ」に随行させてもらったので、その内容をシェアしたいと思います☆
 
***
 
今回ワークショップを実施したのは、Greenhill Primary Schoolという公立小学校(State school)の5年生のクラス(Year5)。男女比率はほぼ半々で、全体の人数は28人です。
以前、グローバル教育センター主催の教員研修に参加した先生からの依頼で、ワークショップを実施することになったそうです(ただし先生は当日の進行に携わらず、グローバル教育センターのスタッフが行います)。
マンダラ・ワークショップは2時間×2日間がセットになっていて、今日はその初日。翌々週に後半を行います。
 
■導入(10分)
今日のワークショップの趣旨説明。「違い」があることで生まれる問題をどう解決するか?ということを学びます。最初にスタッフのロジーナが「このクラスの中で、違う国出身の人はいますか?」と質問を投げかけたところ、半数ぐらいの生徒が手を挙げました(ヨークの学校にしては珍しく比率が高い)。イラン、パキスタン、アルジェリアなどから来ているとのこと。「僕、イタリアのクォーターだよ!」と元気に教えてくれた子も。ちなみにスタッフも出身がバラバラです(イギリス、カリブ、ウガンダ、そしてわたしが日本)。
 
DSC00693
■色分けゲーム(30分)
生徒が輪になって立っている状態で、私も含めスタッフ4人が彼らの背中に丸いカラーシールを貼っていきます(黒、オレンジ、白、紫の4色×7人ずつ)。つまり、みんな自分に付いている色は見えません。そのあと、「声を出さずに」同じ色同士の人が集まってグループを作るというワーク。「話す以外にどんな方法でコミュニケーションを取ったらいいかな?」という問いをあらかじめ出しておきます。いざゲームが始まると、ヒソヒソ声で話してしまう子もいるので、「ささやくのもダメ!」と釘を刺す必要があります。
 
DSC00698
無事に4グループに分かれられたところで、「話しちゃいけない中で、どうやって工夫したのかな?」と聞きます。子どもたちは、「教室に貼ってあるポスターを指さして、友達の背中に付いている色を教えた」、「同じ色の子を身振りで呼んで集めた」と答えてくれました。
 
さて、ここで背中のシールをはがして、もう一度輪になります。「今度は新しいシールを貼るから、また同じようにグループを作ってね。さっきよりも効率よく、素早くできるように工夫してみて!」と伝えます。実はこの2回目は、2人だけどの色にも当てはまらないシールが貼られる(ピンク色の四角と、銀色の星型)のですが、それはスタッフしか知りません。
 
DSC00701
一度同じアクティビティをやっていたので、今度は簡単・・・なはずが、ここで問題が起こります。どのグループにも入れない生徒が2人。他の生徒に何度も背中を確認されるも、首を振られてしまい、教室の真ん中にポツンと残ってしまいました。ここで、ロジーナが聞きます。「どうしてグループに入らないの?」。すると生徒たちは「シールの色が、2人だけ違うんだ」。クスクスと笑っている子たちもいます。あぶれてしまった2人に「どんな気持ち?」と答えると、ピンクのシールの女の子は「仲間はずれみたい・・・」、銀のシールが付いた男の子は「うーん・・・わかんない」。
 
DSC00703
ロジーナがここでまた問いを投げかけます。「本人たちは、他に選択肢がなかったのに仲間に入れなかった。この状態を、排除(Exclusion)と言うんだよね。じゃぁ、どうやってグループに入ったらいいと思う?何か良いアイディアはあるかな?」すると生徒たちから、「一番近い色のグループに入る。ピンクはオレンジに近いし、銀は白に似ていると思う」「人数が少ないグループに入る」「自分の行きたいところに入ればいいんじゃない?」と口々に答えました。
 
生徒が席に戻ったあと、「もし自分がさっきの2人の立場だったら、どう感じるかな?」とロジーナが尋ねると、「寂しい」「ハッピーじゃない」「みじめな感じ」と答える生徒たち。「では、実際にああいう経験をしたことがある人?」という質問にも、たくさんの手が挙がりました。ここで次のアクティビティに移ります。
 
■絵本の読み聞かせと議論(30分)
色分けゲームで体を動かしたあとは、「The Island」(Armin Greder, 2008年)という絵本をスクリーンに写し、スタッフのJZが読み聞かせをします。読む前にロジーナが生徒たちに問いかけた質問は2つ。「島民たちの反応はこれで良かったと思うか?」「この島は、住むのに良い場所だと思うか?」
 
DSC00706
わたしが調べてみた限りでは、この絵本の邦訳が出ていないみたいなので、簡単にあらすじを書いておきます:
 
~あらすじ~
とある島の海岸に、何も服を着ていない、見知らぬ男が流れ着く。一体彼が誰なのか、どこから来たのか、何を必要としているのか、誰にもわからない。彼を見つけた一人の漁師が「このまま海に戻したら、彼は死んでしまう」と心配したため、島民たちはしぶしぶ島に迎え入れ、ヤギの檻の中に入れることにする。
 
島民たちは次第に、その男が食べ物と助けを必要としていることに気が付くが、教師や聖職者でさえも彼を助けなくて済む言い訳を探す。「彼に全部食べ物を食べられてしまうかもしれない」「私たちよりも安い賃金で働かせることができるのでは?」「でも厨房で彼を働かせたら、誰もうちの宿で食事をしたがらないに違いない」「どうやら彼は骨を食べるらしい」「このままでは私たち島民を殺すのではないか」― 憶測が飛び交い、次第に島全体が彼を恐れるようになる。
 
やがて、島民はその男を無理やり海に追い出すことに決める。そして、もう二度とよそ者が島を見つけて侵入することのないよう、島全体を高い壁で覆ったのだった。
 
The Island
・・・というストーリーです。無表情な「よそ者」と、恐怖や嫌悪感を抱く島民の表情が、なかなか恐ろしいイラストで描かれています。
このお話と、最初にやった色分けゲームでの学びを踏まえて、生徒たちに質問を投げかけていきます。
 
漂流してきた男と島民は、お互いの言葉が理解できない中、どうすればコミュニケーションを取れたか?
→ 生徒たちも色分けゲームの時に「話してはいけない」という制約があったことを思い出させます。「おなが空いていることをジャスチャーで伝える!」「食べ物を指さす!」などの答えが挙がりました。
 
島民たちが彼に対してしたことは、良い方法だったか?(NO、という声が上がったので)自分ならどうしたと思うか?
→ 「食べ物を分ける」「温かいお風呂に入れてあげて、服を着させる」「家でもてなす」などの反応がありました。
 
本当にその男は島民を殺してしまう危険があったと思うか?
→ これに対する生徒の反応はさまざまでした。「いつ何をするか誰にも分からない」「ヤギ小屋の中にナイフがあったら使うかも」と答えた生徒も。また、「弱っているから、そんな力はなかったと思う」「島の人たちが勝手に想像を膨らませただけ」という意見も。差別や偏見、という言葉は出たわけではありませんが、「よそ者に対する漠然とした恐怖」というのは感じ取ったようでした。
 
最後のシーンで、島の周りを高い壁で覆ったことによって、何が起こると思うか?
→ この質問は、最初ピンと来ない子も多かったように見受けられました。ロジーナが「外に出られないし、中に入って来られないとしたら?」と言葉を補うと、「休暇中、島の外に遊びに行けない」「海水や魚を採れなくなる」「島の人が病気になっでも、外のお医者さんに診てもらえない」などの答えが出ました。
 
DSC00705
■ストーリーの共有(15分)
ゲームと絵本を通じて、「違いによって起こる対立とその解決」について考えてきた子どもたちに、ボランティアのマドゥが、40年前にウガンダからイギリスへ移住してきた時に経験した自分のストーリーを話します。
(背景について補足:ウガンダは1894年にイギリスの植民地とされ、1962年に英連邦王国の一員として独立。1970年代のウガンダでは軍事政権による独裁政治が敷かれ、インド系住民が多数追放されました)
 
~ストーリー~
わたしは1973年に、両親と共にイギリスへ移住して来ました。他に選択肢はなかったのです。最初はロンドンにいましたが、その後結婚し、ヨークに移りました。知り合いは周りに誰もおらず、「外国人」である自分に話しかけてくる人はいませんでしたし、こちらから挨拶をしても無視されていました。生後18ヶ月の子どもを抱えて、夫が働きに出ている間は良く一人で家で泣いていました。
 
そんなことが続いていたある日、私はある賭けに出ることを決めました。隣の家のドアをノックし、こう言ったのです。「しばらく私の子どもの面倒を見てください」。そして返事も待たずに息子を預け、私はその場を離れました。
相手は、会話も交わしたことのない人です。もしかしたら、自分の子どもがひどい目に遭わされるかもしれない。怒鳴り込んで来るかもしれない。そういう不安ももちろんありました。でも、誰も私にチャンスを与えてくれないなら、自分からチャンスを取りに行くしかない。一か八か賭けてみよう。そう思ったのです。
 
そして30分後、私は再びお隣さんを訪ねました。「うちの子は、ご迷惑をお掛けしませんでしたか?」そう聞くと相手は、「全然!すごく良い子でしたよ。声を掛けてくれれば、いつでも面倒を見ますよ!」実際、彼女はとても優しい女性だったのです。それまでは知らなかっただけで。すると翌日、彼女から「良かったら、紅茶を飲みに来ませんか?」とお誘いがありました。こうして私は、イギリスに来て初めての友達ができたのです。
 
DSC00711
その年の冬、私は大量のクリスマスカードを買いました。夫は「友達もろくにいないのに、そんなにたくさんのカードをどうするつもり?」と不思議がっていました。私は「メリークリスマス」のメッセージに、夫、自分、息子の名前を添えてせっせとカードを書きました。そして、自分が住んでいるストリートにある家 一軒一軒のポストにそれを投函していったのです。数えてみたら、全部88枚ありました。そうしたら、3人がクリスマスカードの返事をくれたので、私はとても嬉しかったの!
 
私がウガンダからイギリスに来た時、誰も相手にしてくれず、一人ぼっちでした。それが今では、毎年100人以上の友達からクリスマスカードをもらうようになったのです。待っていても、誰もチャンスをくれるわけではなかった。だから私は、自分からチャンスをつかみに行ったのです。これが、私のストーリーです。
 
■ここまでのまとめ(10分)
色分けゲームで、「少しの違いが排除につながること」を体験し、解決策を探し、
絵本を通じて「排除を生み出す原因と背景」について客観的に考え、
マドゥのストーリーを通じて「排除される側の気持ち」を知る
というプロセスを辿ってきた子どもたち。
 
• どうしたら、「排除」が起こることを止められるかな?
• 私たちは一人ひとりユニークな存在で、それぞれが素晴らしい。だから、みんな違って当たり前。
• 誰とも「違う」けど、「似ている」ところもたくさんあるね。
• お互いの存在を尊重し合うことで、ハーモニー(調和)が生まれるんだね。
 
そんなことをロジーナが話し、今日最後のワークへと移ります。
 
■マンダラのアイディアスケッチ(25分)
グローバル教育センターが学校で行うワークショップでは、最後にクラス全体でマンダラ(Mandala)を制作します。
マンダラ?・・・漢字で「曼荼羅」と書けば伝わるでしょうか。日本語だと仏教の世界観を表現した絵画を思い浮かべると思いますが、英語だとヒンドゥー教をはじめさまざまな宗教で「宇宙」を表すスピリチュアルなシンボルを指すようです。
 
このワークの目的は、「自分が大切にしている/したいもの」をイメージした一人ひとりのマンダラを描き、それを全て並べてクラス全体で大きな作品(布)にすることで、「多様性(ダイバーシティ)を認めあうコミュニティ」を可視化すること。出来上がったものは、教室の壁に飾り、いつでも振り返れるようにします。
 
DSC00715
まずロジーナをJZが、他の学校の生徒たちが作ったマンダラや、いろんな国の人たちが描いたデザインを子どもたちに見せます。それぞれ、基本の形(円や六角形など線対称)は同じですが、描かれているイラストや色、模様はさまざま。たくさんの例を見せることで、ルールに囚われず自由に描いていいことを伝え、自分の作りたいイメージを良く考える時間を与えます(生徒たちの目が輝いていたのが印象的でした!やはり、実際に手を動かし何かを創り出す時間が必要なんだなと感じました)。
 
イメージが膨らんできたところで、マンダラの基礎だけ印刷されている白黒印刷の紙を一人ひとりに配布します。
 
DSC00718
 
DSC00723
DSC00724
DSC00727
すぐに描き始める子、しばらく考えてから取り掛かる子などさまざまでしたが、みんな生き生きと取り組んでくれました!今日(前編)は鉛筆で下書きをし、次回のワークショップ(後編)で色を付けて完成させる、という流れになっています。
 
***
 
こうして文章にしてみたら、かなりのボリュームになってしまいましたが!グローバル教育・ダイバーシティ教育などに関心のある方にとって、何か一つでも参考になるポイントがあれば嬉しいです。わたしも帰国後は、再び教育ワークショップの企画・運営に携わりたいと考えているので、自分にとってのヒントという意味も込めて。
 
マンダラ・ワークショップの後編は、今月23日にまた学校を訪れて開催しますので、またレポートします♪
 
【追記】レポート後編もアップしました。
「違い」から生まれる対立を解決するには?【後編】 | 齋藤実央 Official Blog 【Enbook】
 

『なりたい自分に近づく!』大学生のためのキャリアデザインカフェ

ymca_workshop
 
学生YMCAメンバーが中心に企画した「キャリアデザインカフェ」で、ワークショップのファシリテーターを務めました!
 
自分の人生グラフを描くことで、〝これまで/いま/これから〟の人生を視覚化する。
どんな時に自分のモチベーションは上がりやすい/下がりやすいのか?
現状に対する満足度はどれぐらいか?
ビジュアルにして、人に言葉でシェアすることで、新しい発見があったり、自分のやりたいことが少し見えてきたり。
 
photo1
 
photo2
 
photo3
 
日本で「キャリア教育」と言うと、「エントリーシートの書き方」や「面接対策」など小手先のスキルに重点が置かれがちですが、それよりも、社会に出る前の人たちが自分自身と向き合う時間を作ってあげるべきだとわたしは思っています。
 
ワークショップを通じた、もっと本質的に「自分とキャリア」を考えられるような場づくりに携わっていけたらいいなぁ。

都立松原高校で「骨髄移植」の特別授業を担当しました

matsubara_highschool

今日は、都立松原高校の3年生約150名に向けて、40分×2コマの特別授業をさせていただきました。
『生徒へのクリスマスプレゼントになるような時間にしたい』という先生の想いを受けて、【「18歳」の可能性】というタイトルでの講演を。
前半は、「(法律上)18歳からできること」を考えてもらうクイズを、後半は、わたしが今年3月に経験した骨髄移植のお話を中心にしました(18歳から骨髄バンクに登録できるためです)。
 
80分という短い時間でしたが、わたしからはこんなメッセージを込めて。
———-
★18歳は、成人こそしていないけれどたくさんの可能性を秘めています!希望を持って進んでください。
★何事も、選ぶかどうかは自分次第。まずは、いろんな選択肢があることを知ってください。
★あなたが健康に生きていることが、いつか誰かの命を救うかもしれません。「お互いさま」の気持ちでいてください。
———-
 
わたしは私立女子校育ちなので、母校で講演するのとはまた違い、都立共学校の雰囲気は新鮮でした!
元気盛りの150人全員に集中してもらうのは難しかったけれど、一見ヤンチャそうな子が一生懸命メモを取ってくれていたりして、うれしかったです。
 
生徒さんたちからは、次のような感想文が寄せられました。
———-
◎18歳の自分にできること、意外にたくさんあると知って、誇らしくなった。
◎骨髄移植をする勇気はまだないけど、考えてみたい。まずは献血に行きます!
◎これから医療の道に進むので、ますます勉強を頑張りたい。
◎いつか誰かの命を救えるかもしれないから、まずは自分の健康に気を付けて過ごす!
———-
など、さまざまな声が聞けてうれしいし、勉強になります。
一方で、「注射の話とかニガテ…」という子もいたので、今後は配慮も必要だなぁと反省したり。
 
骨髄バンクへの登録に限らず、法律上18歳になったらできることも伝えた今回の特別授業。
———-
◎夢について語るのではなく現実的な可能性を知れたのが良かった。
———-
という意見には、なるほどと思わせられました。具体性は大切!
 
アウトプットするたびに、わたし自身も新たな発見があるので、こうした機会をいただけるのはありがたいこと!これからも、いろんな場に呼んでもらえるよう自分の引き出しを増やしていきたいと思います。
これからも、自分の経験値を増やしつつ、そこから学んだことを次の世代に伝えていけるように。それが、生きる上での小さな希望につながるように。
 

大学受験を控えた母校の高校3年生へのメッセージ

flower_notebook
 
先日、母校で高校3年生の生徒さんたちに、大学受験や進路についてお話させていただく機会がありました。
 
一応、“受験生激励会”ということになっていましたが、すでに社会に出ている身として、わたしが伝えたかったのは、
 
『受験勉強がんばれ!』
ということよりも、
 
『これだ!って決めたら一生懸命やるしかないけど、それでも途中で迷うことはあるし、最初の入り口が“何か違うな”と思ったら、途中で出て、もう一度別の入り口を探せばいいよ』
ということでした。
 
模試の判定に落ち込んだりしながら受験勉強に励んでいるデリケートな高校生が相手だったので、「まぁ適当にやりなよ」という意味に誤解されたら…という不安はあったけれど、それでも伝えたかった。
 
『大学受験で人生すべてが決まるわけじゃない。志を持って進んでいれば、新しい道が拓けていくよ』って。
 
職業柄、わたしの所には
・人の役に立つ仕事がしたい
・国際貢献がしたい
という学生さんが多く来てくれたのですが、終わったあと、
 
『学部を早く決めなくちゃ、でも失敗したらどうしよう、と悩んでばかりだったけど、いざとなったらやり直せるから大丈夫、という言葉に勇気づけられました』
 
というメールを何人かの子がくれて、少しホッとしました。
(しかもみんな長文で、一生懸命想いを伝えてくれたのがうれしかった!)
 
もちろん、初志貫徹も素晴らしいとは思うけれど、わたし自身はここまで紆余曲折あったので、「正解を選ぶこと」よりも「選んだ道を正解にしていくこと」を大切にしたいと思っています。
 
自分なりに頑張ったつもりでも、振り出しに戻っちゃったりして、『こんなはずじゃなかったのに』とか『あの時ああしておけばよかった』と後悔したくなることもたくさんある!!
 
でもそこで腐らずに、新たな道を探して歩いていけば、『今までやってきたことには全部意味があったんだな』って思える瞬間が来たりする。
 
そうだそうだ。
わたしもこの子たちみたいにいろんな想いを抱えて大学に行ったんだ。
18歳なりに頑張ったあの頃があるから、25歳のわたしがいるんだな。
だから、今のわたしも、自分と真摯に向き合わなくちゃ。
そう思えた貴重な機会でした。
 
お声掛けくださった先生方、目をキラキラさせて話を聞いてくれた後輩のみなさん、ありがとうございました!
 

【2013/03/23】シブヤ大学で授業を担当します

shibuya university_logo
 
シブヤ大学で、コミュニケーションの授業を担当します!
タイトルは、【「好き」をアピール!~今日から始めるウェブマガジン~】。
以下、シブヤ大学ウェブサイトから抜粋です。
お申込みはこちらから>>http://www.shibuya-univ.net/classes/detail/851/
 
【追記】この授業は無事に終了しました!レポートはこちらから>>http://www.shibuya-univ.net/report/detail/587/
 
もうすぐ新学期。
新しい出会いにワクワクする人も多いと思います。
 
仲良くなって、連絡先を交換するとき、
Facebookは知ってるけど、アドレスは知らない。
そんなコミュニケーションも増えてきました。
 
ところで、Facebookページって知っていますか?
 
企業や、アーティスト、ブランドなどが
「PRやマーケティングをする場所」として
使われています。
 
最近では、個人でページを作る人もちらほら見かけるようになりました。
テーマや、コンセプト、ターゲットを決めれば、
自分の言葉で情報発信をする「メディア」として活用することができます。
 
これからは、ブログやtwitterに代わるあたらしい自己表現、情報発信の場に
なっていくのではないか、と思います。
 
先生は、会社に勤めながら、ウェブマガジン「Huglobe!」を立ち上げ、編集長をしている齋藤実央さんをお迎えし、ウェブマガジンの作り方について教えてもらいます。
 
この授業では、自分の好きなもの・こと・人にオススメしたいことなど、
自分の関心のあるものを題材に、架空のウェブマガジンを作成してみます。
最後に、それぞれが“発行”するウェブマガジンの編集長として、紹介しあいましょう。
 
もし、気に入ったら実際にページを作ってみるもよし、
ほかの参加者の方のワザを盗むのもよし、自己紹介のネタに使うのもよし。
 
あらためて、自分のことについて見つめなおしたり、
自分の好きなこと・ものを、上手くアピールできる方法を
一緒に考えてみませんか?
 
 
【授業の流れ】
13:30 受付(3階・会議室A)
14:00 授業開始/先生紹介
14:10 自己紹介、グループワーク
14:50 個人ワーク
15:40 発表、感想共有
16:00 終了
※授業後10分程度、アンケートのご記入にご協力をお願いいたします。
 
(授業コーディネーター:森田英里子)