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「違い」から生まれる対立を解決するには?【後編】

 
先日ご紹介した、ダイバーシティ(多様性)ワークショップ前編のレポート。
日本の学校の先生や教育系NGOのスタッフ、青年海外協力隊員として海外で活動されている方やワークショップのファシリテーションをお仕事にしている方など、たくさんの方々から反響がありました!読んでくださって、ありがとうございます。何かの参考になればうれしいです。
 
さて、今回の記事では、後編のレポートをお届けします。
 
☆前編をお読みになっていない方は、こちらからどうぞ↙↙
 
「違い」から生まれる対立を解決するには?【前編】
 
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前回、Greenhill Primary Schoolの5年生クラスを訪問したのは約10日間前。前回のワークショップの時にお休みしていた生徒が2名加わり、今回は30人で行います。グローバル教育センターからはロジーナ、JZ、わたしの3名。クラスの担任・副担任(アシスタント・ティーチャー)の先生が2名、サポートに回ります。
 
■前回の振り返り(10分)
まずは、前回行ったワークショップの振り返り。ロジーナが一つひとつ質問を投げかけていきます。生徒は積極的に手を挙げるので、次々に指名して、答えを言ってもらいます(同じ生徒に偏らないように気を付ける)。
 
◎背中に貼ったシールでグループを作ったとき、どんな問題が起こったかな?
 
◎グループに入れなかった2人は、どんな気持ちがしたかな?
(ここで、10日前に行ったワークショップですが、その時の2人の顔をスタッフがきちんと覚えていて、直接質問をするのがポイント。)
(また、大人が期待するような答えを強要しない。2人のうち女の子の方は、「悲しかった」と答えましたが、前回「わかんない」と答えた男の子は、今回も「うーん…」と考え込んでいたので、ロジーナが「ハッピーだったかな?」と質問。その子は「うん」と答えましたが、それに対してロジーナは「そう考える人もいるかもしれないね。でも、排除(exlusion)されると悲しくなる人が多いかもしれないね」とフォローをしていました)
 
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◎「The Island」の物語に出てきた島民と、漂流してきた男の人は、どんな違いがあったかな?そこで起こった問題と、島民の対応は何だったかな?
 
◎もしもイギリスの島全体が大きな壁で覆われたら、どんな問題が起こるかな?
(前回、「島の周りを高い壁で覆ったことによって、何が起こると思うか?」という質問に対して生徒たちはピンと来ていないようでしたが、今回は「自分たちの国が同じ状況になったら?」と考えさせる質問に自然に変えていました。
※また、一人の生徒が「島で育てられる食べ物が限られちゃう」と答えた際に、「パイナップルを普段食べる人?オレンジは?バナナは?」と簡単に手を挙げられる質問も加えることで、外から輸入しているフルーツが食べられなくなる、という日常生活に落とし込んだ視点も取り込んでいました
 
◎みんなの前で、イギリスに来たときの話をしてくれた女性の名前は覚えているかな?彼女はどこの国出身だったかな?コミュニティに参加するために、どんな行動を取ったのかな?
(ここで、前回は詳しく触れなかった時代背景も簡単な言葉で少し説明をします(ウガンダからインド系住民が追い出されたことなど)。また、ロジーナ生徒たちからの回答を踏まえながら、「多様性(diversity)や違い(difference)が問題を生み出すこともあるんだね」というまとめのコメントをしました)
 
 
■マンダラ制作の説明(10分)・作業(30分)
前回のワークショップ後半で、生徒たちは紙にマンダラ(自分にとって大切なものを文字や絵で表現したもの)の下書きを済ませています。今日は、それを基に布に直接描きこむ作業です。これが最終的に大きな一枚のキルトに貼り付けられ、クラスの壁に飾っておく形になります(下の写真は、他の学校で制作した例)。
 
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線はフェルトペンで縁取り、大きなパーツの色塗りはパステル(布用)でやるといいよ、など説明をしたあと、各テーブルに画材を配布していよいよ作業スタート!前回お休みしていた2人には、個別で説明をします。
 
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「騒がない!」「立ち上がらない!!」と担任の先生に注意を受けながら(笑)、生徒たちはワイワイと作業に取り組みます。
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ちなみに、前回の記事にも書いたとおり、このマンダラ作成のねらいは「自分が大切にしている/したいもの」をイメージした一人ひとりのマンダラを描き、それを全て並べてクラス全体で大きな作品にすることで、「多様性(ダイバーシティ)を認めあうコミュニティ」を可視化すること。最終的な作品に載せる宣言(statement)を考えるため、生徒たちが作業しているテーブルをスタッフが回り、「コミュニティの良い所って何だと思う?(What is good about community?)」と質問を投げかけ、生徒たちの意見を汲み上げます。
 
mandala_statement
☆生徒たちからは、こんなアイディアが出されました!
・友だちと楽しく遊べる。
・何か問題が起きたときに、みんなで解決できる。
・一つのチームとして、一人ひとりがベストを尽くせる。
・一人ぼっちにならなくて済む。・・・など
 
■短い絵本の読み聞かせ(15分)
さて、ここで一旦マンダラを描く作業を中断し、「TUSK TUSK」(David Mackee, 1978年)という短い絵本をスライドに映し、JZが読み聞かせをします。”TUSK”というのは、象の牙のことです。
ちなみにこの本は邦訳も出ているようです:「じろり じろり~どうしてけんかになるの」(デビット・マッキー著、はら しょう訳)
この作者は、「象のエルマー」などの絵本でも有名ですね(カラフルなパッチワークで描かれた象が主人公です)。
 
とても短いストーリーなのですが、簡単にご紹介しますね。
 
~あらすじ~
むかしむかし、黒い象たちとと白い象たちが、住んでいました。
彼らは、世界中のすべての生き物を愛していました。
ところが、お互いに憎み合うようになり、それぞれジャングルの反対側に分かれました。
ある日、黒い象たちは白い象たちを、白い象たちは黒い象たちを殺すことに決めます。
平和を愛する一部の象たちは、ジャングルの奥に逃げ込み、それ以来彼らの姿は見られなくなりました。
残った象たちは長い間戦いを続け、最後にはどちらも絶滅してしまいました。
 
tusktusk
何年かたったある日、平和を愛した象の孫たちがジャングルから出てきました。彼らはみんな、灰色の象でした。
それから象たちは平和に暮らしました。
しかし最近、小さい耳の象たちと大きい耳の象たちが、お互いをけげんな目で見るようになっています。
(おしまい)
*画像はこちらから取りました。
 
ここで、ロジーナが子どもたちに質問をします。
・どうして争いが起こってしまったのかな?
・なぜ灰色の象が出てきたのかな?
・このあと、物語はどうなると思う?
 
生徒たちは「大きな耳の象と小さな象が一緒になって、今度は中くらいの耳の象が生まれる!」
「でも鼻の長さが違ったりしたら、またケンカになるかも」
「牙の大きさとか・・・」
「しっぽの長さとか・・・」
 
そこでロジーナが、「そうだね。色とか耳の大きさとか、小さな違いがきっかけで問題が起きてしまうことがあるよね」と声を掛けます。
みんなの暮らしている世界でも、いろんな違いがあるね。信仰(faith)や領土(teritory)、言語(language)の違いは、戦争が起きてしまう理由の一つになりうるね。みんなが前回やったシールのワークショップや「The Island」の絵本でも同じように問題が起きたことを覚えているかな?何が欠けていたから、ああなってしまったんだと思う?」
 
すると一人の生徒が、「コミュニケーションが足りなかったんだと思う」と声を挙げました。
ロジーナはそれをフォローし、「その通り!コミュニケーションを取って自分の意思を伝えること、相手を理解しようとすることを大切にしないといけないね。みんなが持っている小さな違いを尊重することで、コミュニティが成り立つんだね。そのことをもう少し考えながら、マンダラを描いてみよう!」
 
※このワークを最初にやらず、マンダラ制作の途中にはさむ理由は?と後でロジーナに尋ねたところ、
・1時間通して作業の集中力を保つのが難しいので、少し手を休める時間を取るため
・ただの「お絵描き」で終わってしまわないよう、あらためてマンダラを作る理由を考えるため
だと教えてくれました。
 
■マンダラ仕上げ(30分)
いよいよ、マンダラ制作作業の最終段階。みんな「自分にとって大切なもの」を思い思いに表現しています♪
アイディアが煮詰まったり、うまく色を塗れなかったりしている子がいたら、スタッフが手を貸すこともあります。
また、「ここに書いてあるのは、家族の名前かな?」など作業中に声を掛けることで、生徒一人ひとりが描いているストーリーに耳を傾けます(中には、マンダラに込めた物語を語ってくれる子も)。
 
▼自分の国や、自然を描いたり・・・
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▼好きな歌手の名前や・・・(テイラー・スウィフトのファンだそう)
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▼家族や友だちの名前をぐるっと・・・
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▼フットボール、男の子たちに人気でした!
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▼前回よりも、今回の方がクラスの先生たちが積極的に関わっていたのが印象的でした。
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完成~~~!!!!!
 
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無事、時間内に全員が満足のいく形で作業を終えることができました(学校の授業時間を使って行っているので、これがとても大事!)。スタッフがいくつかのマンダラをクラス全体に紹介し、「それぞれが大切だと思うものが、いろいろあるね!」とコメント。みんなのマンダラは一旦グローバル教育センターで預かり、1枚の布パネルに統合したあと、約4週間後にクラスへ返却、という流れになります。
 
■まとめ(5分)
最後に、ロジーナからコメント。
「これまでみんなで、多様性(diversity)や違い(difference)について考えてきました。これらが生み出す問題に焦点を当てるのか、それともその解決策を考えるのかによって、結果は大きく違ってきます。みんなが作ったマンダラは、1ヶ月ほどで教室に戻ってきます。それを目にするたびに、ここでみんなで考えたこと、話したことを思い出してね」
 
これでしばらく、自分のマンダラとはお別れだよ、と声を掛けると、一斉に「バイバーイ!!」と手を振った、かわいい生徒さんたちでした^^
 
***
 
さて、ここまでお読みいただいて、いかがだったでしょうか?グローバル教育やダイバーシティ教育の実践をされている方、またこういったテーマにご興味のある方にとって参考になる部分があればうれしいです。
わたしが2日間セットのワークショップに同行してみて、実践する上で大切だと思った主なポイントは以下の5つ。
 
◎一つひとつのワークをコンパクトにまとめ、生徒を飽きさせないこと。
・・・とにかくテンポが良く、無駄がありませんでした。でも、生徒が次々に手を挙げる質問の時には、どんどん指名して発言させていました。ワーク→質問→ワーク・・・と交互に時間を設けるのがポイントだと思います。
 
◎一方通行で「教える」のではなく、細かく質問を投げかけることで生徒から答えを「引き出す」こと。
・・・Educateの語源は、ラテン語で「外に導き出す」。まさにワークショップで必要なことだと思います。スタッフがコメントを出すのは、生徒から答えが出そろってから。先に大人の言葉でまとめてしまうことは避けているのが印象的でした。
 
◎どの生徒がどんな発言をしたか、把握しておくこと。
・・・たとえば前編のワークショップでグループに入れなかった生徒を覚えておいたり、まとめの段階で「さっきあなたが『コミュニケーション』という言葉を挙げてくれたように・・・」とフォローをしたり。全体に向かって話しながらも、一人ひとりをきちんと見ているよ、という姿勢を見せることが大切だと感じました。
 
◎シンプルな言葉に絞って伝えること。
・・・大人が簡単に使いがちな「差別(discrimination)」や「対立(conflict)」といった言葉を使わず、「多様性(diversity)」「違い(difference)」「問題(problems)」などの同じ言葉を繰り返し使うことで、生徒たちの理解を容易にしていると感じました。
 
◎「違い」があることのプラス面とマイナス面、両方をバランス良く伝えること。
・・・みんな違って素晴らしい!というだけでは非現実的。かといって負の部分だけを強調するのもNG。「ささいな違いで問題はすぐに起こりがちだけれど、それを解決する方法をみんなで考えよう」というメッセージを、ワーク全体を通してうまく伝えていました。
 
 
これからもわたしは、ヨーク大学修士課程で「グローバル市民教育」を理論的に研究しながら、インターン先のグローバル教育センターでワークショップや教師対象のトレーニング運営を実践的に学んでいきます。またのレポートをお楽しみに♪
 
☆グローバル教育センター(Centre for Global Education York)のウェブサイト
http://www.centreforglobaleducation.org/