【DEAR連載③】演劇を通じて学ぶシティズンシップの可能性(2015年2月号)

 
DEAR(開発教育協会)の会報誌「DEARニュース」で、隔月の連載記事を持たせていただいています。
タイトルは、【ヨーク大学院留学記〜イギリスに学ぶ地球市民教育〜】。
本来、DEAR会員限定の出版物なのですが、発行後に許可を得たうえでこのブログでも寄稿記事をご紹介します。
 
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■第3回 演劇を通じて学ぶシティズンシップの可能性
 
昨年末、The Joseph Rowntree Schoolというコンプリヘンシブスクール(公立の総合制中等学校)を訪問し、Year13(18歳)の演劇(Drama)の授業を見学させていただきました。その内容をレポートする前にイングランドの教育制度について少し触れておきます。
 
まず、私がヨーク大学で研究している「シティズンシップ(Citizenship)」は、2002年以降ナショナルカリキュラムの中でYear9~10(13~15歳)の必修教科に位置づけられており、簡単に言うと「積極的な市民として社会に参加するための理解とスキルを身に付ける」ことが目的です。日本にはない教科ですが、公民や政治・経済、道徳の時間と重なる部分があるかもしれません。
 
今回お邪魔したのは中等教育の最終学年の授業で、生徒たちは大学進学に必要な「GCE Advanced Level(通称: A Level)」という試験教科(通常3~4科目)の一つとして演劇を選択しています。自分たちでテーマや筋書きを決め、3月の最終発表会に向けて練習中とのことでした。
 
さて、今回の訪問の目的は、演劇の授業とシティズンシップの関連性を探ることです。あるグループが選んだテーマは「吃音」。うまく言葉を発することができない主人公の内面の葛藤や公共の場における人々の反応などを、身体の動きとモノローグで表現する予定です。
 
drama_josephrowntree
「これは演劇での授業だけど、シティズンシップと関係があると思う?」という質問に対して、「はい。吃音に限らず、言語障害などを抱える人の気持ちを理解することは市民として重要なこと。観客の意識も変えられるような作品にしたい」とある生徒は答えてくれました。
 
しかし、あくまでも大学進学に必要な教科であり、「発声や身体表現などの技法面を主に評価されるので、社会的なテーマに意欲的に取り組んでも点数に反映されるわけではない」という難しさを挙げた生徒も。シティズンシップを実践的に学べる演劇の可能性を感じた一方、教科として評価することの課題について考える契機となった授業見学でした。
 
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