Tag Archive for DEAR連載

【DEAR連載⑤】シティズンシップ教育の実践に求められるファシリテーション能力(2015年6月号)

 
DEAR(開発教育協会)の会報誌「DEARニュース」で、隔月の連載記事を持たせていただいています。
タイトルは、【ヨーク大学院留学記〜イギリスに学ぶ地球市民教育〜】。
本来、DEAR会員限定の出版物なのですが、発行後に許可を得たうえでこのブログでも寄稿記事をご紹介します。
今回でいよいよ最終回です^^
 
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■第5回 シティズンシップ教育の実践に求められるファシリテーション能力
 
シティズンシップ教育は、子ども・若者たちが現代社会について理解し、積極的に社会参加するための知識とスキルを身に付けることを目的としています。それを教育現場において実践するうえで避けて通れないのが、物議をかもす/論争を招くイシュー(Controversial issues)です。
 
平たく言えば、善悪の判断をつけるのが難しく、賛否両論生まれやすいセンシティブな問題。たとえば、ジェンダー、文化、宗教、政治にまつわるイシューの多くは個人の価値観や信条の差異によって意見の相違が生まれることが多く、取扱いが難しいと感じる人も多いかもしれません。しかし、シティズンシップ教育では、子どもたちがこうした問題について異なる価値観を持つ他者と話し合い、クリティカルシンキング・スキルを身に付けることが望ましいとされています。
 
polling station
[写真]イギリスでは今年、5年ぶりの総選挙が行われました。授業でも政治の話題が良く挙がり、自分が支持している政党を公言する講師陣も多かったです。写真のように、大学のキャンパス内に投票所が設置されていたことで、選挙を身近に感じた学生もいたのでは?
 
「価値観」に関する教育というのは、一方通行の授業だと「刷り込み」「押しつけ」になってしまいかねません。そこで、今後ますます教育者に求められるのは、「ファシリテーション能力」、つまり、子どもたちが話し合いを通じて相互理解・合意形成できるように導くスキルだとわたしは考えています。
 
わたしがインターンをしているグローバル教育センターでは、学校教師向けのファシリテーション研修の中で①まずは教師自身のスタンスを述べずに、子どもたちに問題の背景を説明する、②子どもたちに互いの意見を尊重し合いながら議論させる、③考えうる全ての視点が出そろったあとで、教師自身の考えとその理由も話してよい、ということを伝えています。たとえ教師であっても、完全に「中立」である必要はなく、むしろ「あらゆる視点を考慮したうえで自分の意見を形成する」手本となることを重要視しているのです。
 
子どもたちが互いの意見を尊重し合いながら議論するプロセスを通じて、自分自身の価値観が「絶対」ではないということや、善悪のボーダーラインを引くことの難しさ、異なる意見を持つ他者との折り合いの付け方について学べる場づくりが、今後ますます教育現場において必要になってくるでしょう。
 
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【DEAR連載④】シティズンシップ教育が抱える課題とは?(2015年4月号)

 
DEAR(開発教育協会)の会報誌「DEARニュース」で、隔月の連載記事を持たせていただいています。
タイトルは、【ヨーク大学院留学記〜イギリスに学ぶ地球市民教育〜】。
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■第4回 シティズンシップ教育が抱える課題とは?
 
市民(シティズンシップ)教育とは、一言で言うと「積極的に社会参加するための理解とスキルを身に付ける」ための教育です。イングランドでは2002年から「シティズンシップ」がYear9~10(13~15歳)の必修科目として導入されるなど、市民教育に力を入れている国と言えますが、ここではあえて、内容面での課題を二点挙げます。
 
まず、社会における少数派(マイノリティ)を排除しかねない性格を持つという点。これはイングランドに限らず他のヨーロッパ諸国にも言えることですが、移民や難民、亡命者など国境を越えた人の移動が加速する中で、「誰にどこまで市民権を認めるのか」、「(特に民族的)マイノリティをどう社会に包摂していくのか」という問いに市民教育は応えきれていません。近年ではテロリズムなどの緊張が増していることもあり、「多様性(Diversity)の尊重」と「社会的対立(Social conflict)」のバランスをどう取っていくのか、教育現場では模索が続いています。
 
diversity_workshop
[写真]イングランドの公立小学校で行った、多様性理解ワークショップの様子
 
次に、市民が果たすべき責任と比べて、政府の責任を市民が要求する権利が強調されていない点が挙げられます。市民教育が掲げる「民主主義的な社会参加」には、政府や国際社会への批判的な姿勢も求められます。しかし、政府主導のナショナル・カリキュラムに従う以上、学校で教師が伝えられる内容に限界があるのも事実です。そのため、市民教育が愛国主義的な内容になりがちであると批判する研究者もいます。これは、日本の道徳教育・公民教育にも共通する部分があるかも知れません。
 
このように、経済や政治システムがグローバル化する中で、もともと国家の枠組みの中で発展してきた「市民(権)」の概念が揺らぎ、市民教育の課題も出てきています。最近では、世界の中の一市民としての責任を果たす「グローバル市民(地球市民)」という言葉も聞かれるようになりましたが、排他的な性格を持つ「市民(権)」という概念を、グローバルな文脈で論じる際に生じる矛盾についても慎重な議論が必要だと私は考えています。
 
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【DEAR連載③】演劇を通じて学ぶシティズンシップの可能性(2015年2月号)

 
DEAR(開発教育協会)の会報誌「DEARニュース」で、隔月の連載記事を持たせていただいています。
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■第3回 演劇を通じて学ぶシティズンシップの可能性
 
昨年末、The Joseph Rowntree Schoolというコンプリヘンシブスクール(公立の総合制中等学校)を訪問し、Year13(18歳)の演劇(Drama)の授業を見学させていただきました。その内容をレポートする前にイングランドの教育制度について少し触れておきます。
 
まず、私がヨーク大学で研究している「シティズンシップ(Citizenship)」は、2002年以降ナショナルカリキュラムの中でYear9~10(13~15歳)の必修教科に位置づけられており、簡単に言うと「積極的な市民として社会に参加するための理解とスキルを身に付ける」ことが目的です。日本にはない教科ですが、公民や政治・経済、道徳の時間と重なる部分があるかもしれません。
 
今回お邪魔したのは中等教育の最終学年の授業で、生徒たちは大学進学に必要な「GCE Advanced Level(通称: A Level)」という試験教科(通常3~4科目)の一つとして演劇を選択しています。自分たちでテーマや筋書きを決め、3月の最終発表会に向けて練習中とのことでした。
 
さて、今回の訪問の目的は、演劇の授業とシティズンシップの関連性を探ることです。あるグループが選んだテーマは「吃音」。うまく言葉を発することができない主人公の内面の葛藤や公共の場における人々の反応などを、身体の動きとモノローグで表現する予定です。
 
drama_josephrowntree
「これは演劇での授業だけど、シティズンシップと関係があると思う?」という質問に対して、「はい。吃音に限らず、言語障害などを抱える人の気持ちを理解することは市民として重要なこと。観客の意識も変えられるような作品にしたい」とある生徒は答えてくれました。
 
しかし、あくまでも大学進学に必要な教科であり、「発声や身体表現などの技法面を主に評価されるので、社会的なテーマに意欲的に取り組んでも点数に反映されるわけではない」という難しさを挙げた生徒も。シティズンシップを実践的に学べる演劇の可能性を感じた一方、教科として評価することの課題について考える契機となった授業見学でした。
 
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【DEAR連載②】地元の人に愛されるチャリティ・ストリート(2014年10月号)

 
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■第2回 地元の人に愛されるチャリティ・ストリート
 
ヨークの街の中心部、大聖堂からほど近い距離にある「グッドラムゲート(Goodramgate)」という通りは、地元の人々からは「チャリティ・ストリート」という愛称で呼ばれることがあります。長さにして500メートルほどのこの通りには、カフェやレストラン、日用品店の間に交じって、「Oxfam(オックスファム)」「British Heart Foundation(英国心臓支援基金)」などの慈善団体が運営するチャリティショップが6店舗(2014年9月1日現在)並んでいるためです。これらの店舗では、一般の人々から寄贈された中古の書籍や雑貨、洋服のほか、新品のフェアトレード商品などが販売されています。売上金額は各団体の活動費として使われるので、私たち消費者はそれらの商品を購入することで間接的に彼らの活動を支援できるというわけです。しかし、寄付を募るポスターなどが店内に貼られている以外はさほど宣伝色が強くないので、地元の人々は普通のお店と同じ感覚で買い物を楽しんでいます。
 
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British Heart Foundationが運営するチャリティショップ(許可を得て撮影)

 
いずれの店舗も、1~2名のマネージャーを除いて無給のボランティアスタッフによって運営が支えられています。メンタルヘルスを推進する慈善団体「Mind(マインド)」の管理マネージャーは、「このお店を運営するには週に220時間分の労働力が必要。商品の仕分けや値札貼り、陳列やレジ業務など、彼らの協力なくしては仕事が成り立ちません」と話します。各店舗のボランティアスタッフに活動頻度を尋ねてみたところ、「週1日午後だけ」という人から「週3日、30年間働いている」という人までさまざま。性別問わず、20~60代の幅広い年齢層のスタッフが活躍しています。
 
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Oxfamのチャリティショップで働くボランティアスタッフと筆者(写真左端)

 
ヨークの街にすっかり定着しているチャリティ・ストリートですが、テナント賃料の値上がりに伴い、経営難のため閉鎖した店舗も過去にいくつかあるとのこと。慈善団体の重要な収入源であるチャリティショップを存続させるためには、活動内容の充実だけでなく、店舗の経営管理能力がますます必要とされると言えそうです。
 
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【DEAR連載①】国際NGO、赤十字、そして大学院留学へ(2014年8月号)

 
DEAR(開発教育協会)の会報誌「DEARニュース」で、隔月の連載記事を持たせていただくことになりました!
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photo by DEAR Facebook Page

 
■第1回 国際NGO、赤十字、そして大学院留学へ
 
はじめまして!今月号から、5回にわたって連載記事を持つことになりました、齋藤実央です。今年9月から英国・ヨーク大学の修士課程にて、「地球市民教育(Global Citizenship Education)」を研究します。この連載では、大学院での勉強やヨークでの生活について書いていきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。
 
私は大学生の時、セルビア共和国の難民キャンプで子どもの世話をするボランティアをしたり、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンという国際NGOのユースメンバーとして「子どもの権利」について同世代に啓発する活動をしたりと、国際貢献に強い関心を持って4年間を過ごしました。
 
大学卒業後、日本赤十字社に入社。高校生や大学生を対象とした国際交流プログラムの企画・運営などを担当するうちに、グローバル/ローカルな課題解決に貢献できる若者を育てる教育手法についてもっと勉強したいと思うようになり、DEARなど他団体の研修に参加するようになりました。その中で出会ったのが、「地球市民教育」だったのです。
 
地球市民教育とは、「地球規模の課題の解決のために自ら行動できる市民を育てる参加型学習」のこと。グローバリゼーションと相互依存、持続可能な開発などをテーマとし、クリティカル・シンキングやディスカッションなどのスキルを身に付けながら、多様性への理解やアイデンティティ、自己肯定意識を育むことを目標にしています。
 
私はこれまで、「より良い社会をつくりたい」という志がありながらも、地球規模の課題の大きさ、複雑さを前に自信を喪失してしまう若者を多く見てきました。だからこそ、地球市民教育をヒントに、「グローバルな視点で『外の世界』と関わりながら『内の世界』とも向き合い、自分自身の役割や存在意義を見出せる」人材育成・キャリア教育のあり方を探りたいと思い、退職・留学を決意しました。
 
初めての留学なので不安もありますが、納得のいく1年間を過ごせるよう頑張ります!
 
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★わたしが大学院で勉強する「地球市民教育」についてはこちらの記事も併せて読んでみてください。
 
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