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バックパッカーの恩送り

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~サハラ砂漠に映る、ラクダと自分の影~

 
「恩送り」という言葉を口にするたびに、思い出す人がいます。
4年前、アテネの空港で出会った、名前も知らないドイツ人の女性。
彼女が掛けてくれた一言が、今でも忘れられません。
 
大学生活最後の夏、わたしは大きなバックパックを背負って1人旅をしていました。
今まで見たこともない景色に出会う興奮と、
自分の身は自分で守らなければならない緊張感・・・
たくさんの想いを抱えながら、世界中を旅していました。
 
1人旅3ヶ国目のエジプトに向けて発つため、アテネの空港で時間をつぶしていたとき、
銀髪のマダムが私に話しかけてきました。
 
「すみません、少しの間、荷物を見ていてくださる?あそこのスタンドでコーヒーを買ってきたいの」
 
わたしは、特にすることもなかったので、
「いいですよ、待ってます」
と答えました。
 
「あなたもコーヒー飲む?」
と聞いてくださいましたが、
わたしはしばらくユーロ圏には戻ってこないから、と思い、残っていた硬貨を全て使い切ったあと。
だからもう空港では買い物をしないつもり、と返事をし、
彼女が置いていったカートを軽く手で押さえながら、ベンチに座って待っていました。
 
10分ほどして戻ってきた彼女の手には、コーヒー2つとデニッシュの入った袋が。
 
「荷物を見ていてくれたお礼に、良かったら食べてね」
と私に手渡してくださって。
 
「そんな、特に何もしていないのに・・・ありがとうございます」
と少し戸惑いながらお礼を言うと、マダムは言いました。
 
「こう見えて、わたしも若いころ、バックパッカーだったのよ。
そのとき、旅行先でたくさんの人たちにお世話になったの。
だから、今度はわたしが親切にする番だと思って。
どうか安全に、最後まで楽しい旅を続けてね」
 
そうか。
 
そうだったんだ。
 
この女性は、わたしに“恩送り”をしてくれたんだ。
 
「あの、わたしも大人になってバックパッカーで旅している人を見つけたら、
きっとあなたみたいに助けてあげます。本当にありがとう」
 
そうわたしが答えると、彼女はにっこり笑ってその場を立ち去りました。
 
ほんの一瞬のことで、
彼女の名前も聞かずじまいだったけど、
この時のことを今でもはっきりと思い出すことができます。
 
旅をしていると、イヤな目に遭うこともある。
でもそれ以上に、多くの人の親切に触れることができる。
 
きっとそれは旅に限ったことではなくて、人生を通じてたくさんの優しさを受け取っていて、
見ず知らずの人に“恩返し”をする機会は訪れないかもしれないけれど、
次に出会った誰かにその恩を送ることはできる。
 
わたしに対して周りの人が与えてくれる愛、
それはきっと、長い時を経て、人から人へと受け継がれてきたもの。
その繋がりを絶ってしまわぬように、
ゆっくりゆっくり“恩送り”を繰り返していきたいものです。
 
☆このコラムは、以前Huglobe!の方で書いた文章を転載しました☆
 
わたしが世界一周航空券を使った時のブログはこちらです。
[Gull or Bee - 2009年9月2日~10月19日の約50日間、 女子大生12ヶ国1人旅のブログ]