├シティズンシップ教育

理想論だと言われても教育者として追求したいこと

 
フランスの風刺週刊誌「シャルリ・エブド」本社の襲撃事件。
 
シリアで起きた、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」による日本人の人質殺害事件。
 
今わたしはイギリスにいて、日本・海外メディアの報道やネット上での様々な反応を毎日目にしていて、心がいつもザワザワしています。
 
どこまでが「表現の自由」なのかとか、
「自己責任」がどうとか、
いろいろ意見は飛び交っている中で、
物事の「本質」はどこにあるのだろう
とわたしなりに考えて、わからなくなって、でも思考停止に陥りたくないからまた考えて。
 
個別の事件について(そしてこれらの報道やゴシップの陰に隠れてしまっているけれど世界のあちこちで進行中の問題について)思うところはもちろんあるのですが、このブログでは、イギリスで市民教育(シティズンシップ教育)を研究する学生・教育者としての想いを書こうと思います。
 
***
 
池上彰さんの日経新聞コラム(こちらの記事:「後藤さんの志を継ぐために」)に、こんなことが書いてありました。
 

こうした悲劇を防ぐには、どうすればいいのか。即効薬はありませんが、いまこそ求められるのは歴史観ではないのか。人間の愚かさと知恵の詰まった歴史を学ぶ中から、次の悲劇を防止する仕組みを構想する。

 
歴史を学ぶ目的は、試験のために年号や単語を暗記することじゃない。変えられない過去の教訓を現在に生かし、持続可能な未来に繋げることなのだと、わたしも考えています。
 
でも、それを子どもたちに教えられる大人は、教師は、どれだけいるだろう?
わたしは、いま世界で起きていることの「本質」をどのぐらい理解しているだろう?
 
***
 
「もっと学びたい」と思ってイギリスの大学院に来たけれど、学べば学ぶほど、まだまだ自分がわかっていないこと、深く知らなければいけないことがたくさんあると気付かされます。
わたしの専門は教育だけど、歴史も、政治も、法律も、経済も、ぜんぶ繋がっていて、果てしない。社会というのは、そんなにシンプルにできていないから。
 
だからこそ、学生時代にバラバラの科目ー国語、歴史、公民、生物などーで学んできたものは、本来それぞれの繋がりを意識して学ぶことが必要なのではないか、と市民教育の研究を始めてから強く思います。
 
では、それらを繋ぐものは何かということになるのですが、
こちらの記事にも書いたとおり、わたしは教育プログラム全体のベースには、社会正義(Social justice)の促進、特に人権(Human rights)の尊重という共通意識があるべきだと考えています。
 
そのために国はどのような教育方針、カリキュラムを打ち出すべきなのか、
 
学校現場では何をどう教えていけるのか、
 
わたしのいるNGOセクターではどのようなアドボカシー(政策提言)、サポートをしていけるのか。
 
考えなければいけないことは山積みだし、1年イギリスで研究して修士号を取っただけで答えが出るなんて思っていません。
 
ただ、世界中で起きている負の連鎖を見るにつけ、
取り返しのつかないことが起こってから表面上の議論をするのではなく、
根本的に、教育の在り方から考え直すべきなんじゃないか
という想いは強くなるばかりです。
 
「教育」というのはすぐに成果が出るような特効薬ではないし、
そもそも何が正しくて何が間違っていると言える話ではないので、わたしの考えは理想論だと言う人もいるでしょう。
でも、少なくともわたしは、「自分自身と他者の人権をどう守っていくべきか」を考え、議論する機会がもっとあるべきだと強く信じています。大人も子どもも。
 
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”どうせ自分は非力な存在で、どうあがいたって社会なんて変えられないんだな”
 
と、20歳の時にセルビアで抱いたやさぐれた気持ち。
 
そのあと、学生ボランティアの活動をスタッフとしてサポートする立場になり、徐々に自分の中で膨らんでいった、
 
”一人ひとりが、自分自身の役割や尊厳に気付き、他者と多様性を認め合いながら参加できる社会を創っていくために、教育者としてどうエンパワーメントしていけるだろう?”
 
という疑問。
 
これが、わたしが留学を決めた原点です。
 
国際情勢が揺らいでいて、何を、誰を信じたらいいのかわからなくなることもあるけれど。
こんな時だからこそ、原点に立ち戻って、自分にできることを一つひとつ着実にやっていきたい。
今すぐに何かを変えることはできなくても、過去の教訓を未来に繋げるために、教育のフィールドでできることがきっとあるはずだと信じて。
 
とりとめもなく書いてしまったけれど、ここ最近こんなことをぐるぐると考えています。
 
[Photo via zsazsabellagio.blogspot]

シティズンシップ教育を知りたいときに役立つ書籍・サイト集

 
自分のための備忘録も兼ねて、わたしが英国・ヨークで学んでいるシティズンシップ教育(市民教育)の関連リンクをこちらの記事にまとめておきます。関心のある方にとって参考になれば幸いです!
ちなみに、下記リストで★印がついているのは、わたしがニュースレターを購読している団体。定期的に最新情報を得られるのでオススメです♪
 
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photo via dealingsonnet.tumblr.com

 
■英国政府のウェブページ
Department for Education
National curriculum in England: citizenship programmes of study
Ofsted (the Office for Standards in Education)
 
■EU(欧州連合)関連組織のウェブページ
◎欧州評議会(Council of Europe)
Education for Democratic Citizenship and Human Rights (EDC/HRE)
 
◎欧州委員会(European Commission)
・EU加盟国の統計データベース(便利!):eurostat
 
■研究機関・ネットワーク
International Centre for Education and Democratic Citizenship (ICEDC) – UCL Institute of Education, University College London
International Migration, Integration and Social Cohesion – IMISCOE
 
■非営利組織(NGO、チャリティ)
◎若者政策(Youth policy)全般
Youthpolicy.org
 →世界各国の若者政策に関するデータベース(便利!):http://www.youthpolicy.org/resources/
 
◎シティズンシップ教育
Association for Citizenship Teaching
The National Foundation for Educational Research in England and Wales
 →研究レポート:CELS: The Citizenship Educational Longitudinal Study – 2001-2010
citizED
Citizenship Foundation
DARE Network | Democracy and Human Rights Education in Europe
Global Citizenship | Oxfam Education
Community Service Volunteers
The European Wergeland Centre
 
◎人権(Human Rights)
British Institute of Human Rights
 
◎グローバル教育
Think Global
 →教材のデータベース:Global Dimension
Centre for Global Education York
 
◎持続可能な開発
ESDN | European Sustainable Development Network
 
■オンラインで読めるジャーナル
Citizenship, Social and Economics Education (ISSN 2047-1734)
Journal of Social Science Education (JSSE)
Taylor & Francis Online :: Citizenship Studies – Volume 19, Issue 1
The Journal of Corporate Citizenship (JCC) ISSN 1470-5001 (print)/ISSN 2051-4700 (online)
Journal of Global Citizenship & Equity Education
 
■関連資料
Education for citizenship and the teaching of democracy in schools. Final report, 22 September 1998(通称:クリック・レポート)
Sustainability, Development and Global Citizenship (Institute of Education, University of London)
Citizenship Education in Europe (Published by the Education, Audiovisual and Culture Executive Agency, 2012)
 
■日本語で発行されている関連書籍
『市民権とは何か』デレック・ヒーター (著)、田中 俊郎・関根 政美 (翻訳)
→大学院での授業で最初に扱ったのが、この原書でした。
 
『社会を変える教育 Citizenship Education ~英国のシティズンシップ教育とクリック・レポートから~』長沼 豊 / 大久保 正弘 (編著)、バーナード・クリックほか(著)、鈴木崇弘 / 由井一成 (訳)
→巻末にクリック・レポートの和訳も付いていて、英国のシティズンシップ教育について基礎知識を得るのに役立つ一冊。
 

日本の道徳教育を「人権」の観点から考えてみた

 
■最近話題の、「道徳の時間」の教科化について
 
昨年(2014年)10月、中央教育審議会が「道徳教育の教科化」を下村博文文部科学相に答申しました。現在は正式な教科ではない小中学校の「道徳の時間」を、「特別の教科」(数値評価を行わない)に格上げし、検定教科書を導入する方針。文科省は学習指導要領を改定し、早ければ平成30年度(2018年)からの教科化を目指すという報道がありました。
 
☆リンク:道徳に係る教育課程の改善等について(答申)(中教審第176号)
 
わたしは現在、イギリスの大学院で「市民教育(Citizenship Education)」について学んでいて、日本の「道徳の時間」は部分的に重なる部分があると思っているので、関心のある話題です。これについてFacebookで友人の皆さんから「どう思いますか?」と自由な意見を募ったところ、さまざまな立場の方からたくさんのコメントをいただきました(ありがとうございました!)。以下、一部抜粋してご紹介させていただいたあとに、わたし自身の考えも書いてみます。
 
☆「道徳の時間」が大切な理由は?
 
・いじめや犯罪防止に限らず、勉学やビジネスにとっても、道徳など情操教育の重要性を感じている。
 
・(カトリックの私立小学校では)「宗教の時間」が「道徳の時間」代わりで、聖書の物語を通じて隣人愛を学び、世界に色々な他の宗教があることを知ることができた。
 
・宗教の授業を通してボランティアや募金活動を身近に感じられた。小さいときに良い話を聞く機会を作るのは大切。
 
・授業を受けていた当時はあまり記憶に残らなかったけれど、大人になってから他人への思いやりや恩の大切さを実感するようになった。
 
・他の教科は答えを導き出すことに特化しているけれど、道徳の時間は感性を育める。同時に、教える教師自身の戒めにもなるのでは。
 
・教科化には賛成。でも教科書を読んで、筆者の考えを先生がそれとなく述べるだけなのであれば必要ない。
 
・道徳の授業を通して、初めて何かを知る生徒がいるかもしれない。でも社会一般の道徳常識が備わったのは、(授業よりも)両親の影響が大きいと感じる。
 
・日本にはキリスト教など強い教義を持つ宗教が社会の核とはなっていないから、学校教育で「道徳」が特に必要なのでは。個々の価値観が多様化するからこそ、あえて社会共通の価値観である「常識」を作らないと荒れていってしまう。
 
☆教科として評価することへの疑問
 
・特定の価値観を押し付けることになりそうだから、道徳の教科化には反対。
 
・教科化すると、検定教科書に書いてあることを頭に入れるだけになってしまいそう。
 
・「教科=成績をつける」のであれば教科化には反対。
 
☆そもそも「道徳の時間」って学校で必要?
 
・教科化の是非論議の前に、そもそもどういう日本人を育てたいのか、という根本的な議論が政治の世界で未熟な気がする。
 
・道徳心は、教科として学校で教えるよりも、電車とか公共の場での大人のマナーを見て養われるのでは。
 
・「道徳の時間」の中身はあまり覚えていない。「学校活動全体を通して」(掃除の時間や給食の配膳とか、昼休みや行事準備など)という形で道徳を学んだように思う。
 
☆「道徳の時間」に求められること
 
・内容にもよるけれど、人権教育や選挙民教育はした方がいい。
 
・教師や大人の顔色ばかりを伺う児童を作らないために、教える内容をジレンマにする必要がある。
 
・既存の各教科の中で道徳を学ぶべきで、「道徳の時間」の役割は、自分たちの生活を問い直す視点から各教科で得た知識を連結することにある。
 
・自分の命は自分で守れ、他者の命(人間としての尊厳)も同じように守れ、ということさえ教えてくれたらそれでいい。
 
・「これが優しさのカタチ」みたいに形や態度だけの教えになったら本質的ではない。だから、道徳の授業は答えのないような人生・世界
の問いについてとことんディスカッションする時間にしたらいいと思う。
 
・「規律」を学ぶんじゃない、一つの答えがあるんじゃなく皆で共有するものだ、と思える内容であることが大事。
 
・・・などなど、他にもいろいろご意見をいただき、大変参考になりました!
 
皆さんから寄せていただいたコメントを見ると、これまで習ってきた道徳教育については
 
「いい話」「優しさ」「思いやり」「愛」「感性」「モラルや規律」
 
といったキーワードを使われる方が多かった印象を受けました。
 
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■わたしの個人的な意見
 
・日本の道徳教育では、「差別をしない思いやりの心」といった個人間(ヨコ)の心理的側面が強調されてきた。
 
・しかし、本質的には「社会正義(Social Justice)」、特に「人権(Human rights)尊重」の共通理解がベースにあるべきであり、国家対市民(タテ)の関係や人権侵害(差別など)が起こる社会的構造を無視してはならない(教科化するのであれば、「人権の時間」という名前にして方向性を明確にすべき)。
 
・また、「道徳の時間」の単独枠で教えようとするのではなく、「公民」を中心に他教科との関連性を意識したうえで、将来自分や他者の権利を守るためにはどう行動するべきかを議論し、考える時間にするべき
 
だとわたしは考えています。詳しくは、また後ほど説明します!
 
■政府としてはどのように道徳教育を捉えているのか
 
先にリンクを貼った中央教育審議会の答申(以下、「答申」)では、下記のように書かれています。

道徳教育を通じて育成される道徳性、とりわけ、内省しつつ物事の本質を考える力や何事にも主体性をもって誠実に向き合う意志や態度、豊かな情操などは、「豊かな心」だけでなく、「確かな学力」や「健やかな体」の基盤ともなり、「生きる力」を育むものである。
学校における道徳教育は、児童生徒一人一人が将来に対する夢や希望、自らの人生や未来を切り拓いていく力を育む源となるものでなければならない。

ちなみにここで出てくる「生きる力」とは、“「ゆとり」でも、「詰め込み」でもない”新学習指導要領の軸となるものです(漠然としている感は否めませんが・・・)。
 
☆リンク:新学習指導要領・生きる力:文部科学省
 
そのほか、道徳教育を通じて身に付けるべき基本的資質として、
 
・多様な価値観の、時に対立がある場合を含めて、誠実にそれらの価値に向き合い、道徳としての問題を考え続ける姿勢
・社会のルールやマナー、人としてしてはならないことなどについてしっかりと身に付けさせる
・それぞれの人生において出会うであろう多様で複雑な具体的事象に対し、一人一人が多角的に考え、判断し、適切に行動する
 
などが答申の中で挙げられています。
 
道徳的価値については、
 
1. 主として自分自身に関すること
2. 主として他の人との関わりに関すること
3. 主として自然や崇高なものとの関わりに関すること
4. 主として集団や社会との関わりに関すること
 
の四つの視点で分類されているようです。
 
■わたしが考える日本の道徳教育の課題
※秋学期のモジュールの一つ(Education and Social Justice)の最終エッセイで取り上げた内容にも重なります。
 
先ほど書いたとおり、わたしは
 
道徳教育=「思いやりの心」や「優しさ」を教える教育
 
という短絡的な捉え方に疑問を持っています。
 
「差別はいけません」「人に優しくしましょう」というのはあくまでも個人レベルの話であって、「(いけないことだとわかっていても)なぜ差別や排除が起きるのか?」という社会構造レベルの問いに答えるには十分ではないし、「社会のルールを守りましょう」と教えるだけでは、たとえば「成人したら選挙に行こう」というモチベーションには結びつかない、と考えるからです(ちなみにわたしが投票に行く大きな理由の一つは、「自分の権利を守るため」です)。
 
もちろん、モラルや規律を守ることは大切ですが、大前提として
 
一人ひとりに「人権」があり、それは尊重されなければいけない
 
という共通理解を育むために(「道徳の時間」に限らず)教育が行われるべきであり、
 
「思いやりの心」だけでは自分の人権も、他者の人権も守れない
 
ということを(教師も生徒も)認識するべき、というのがわたしの考えです。
 
また、子どもに「権利」なんて教えたら、わがままを助長する、自己中心的なことを言うようになる・・・などという意見が聞かれることもありますが、「人権とわがままは異なるものである」ということも(大人含め)学ぶ必要があると思います(むしろ、何が違うのか?を考える時間を授業の中で持つべきでしょう)。
 
もちろん子どもの成長段階に合わせて内容は検討されるべきですが、
 
・日常生活のどんな場面で人権が侵害されるのか?
→いま戦争をしている「遠い国」だけでなくて自分たちの普段の生活でも起こりうること。
 
・人権侵害から守るためには、何と闘い、どんな手段を取る必要があるのか?
→一人ひとりの権利を勝ち取るためには、既存の法律や制度を変えなければいけないこともある。
→だからこそ、「公民(政治・経済や現代社会など)」の授業を通じて、国家と市民との関係を学ぶ必要がある(「1948年に世界人権宣言が採択された」ということを試験のために暗記するだけでは意味がない)
 
など、道徳の時間では、公民を中心に他教科との関連性を意識したうえで、将来自分や他者の権利を守るためにはどうしたら良いのかを議論し、考える時間であるべきだと思います。その中で子どもたちは、「それぞれが権利を主張する時、互いの言い分がぶつかることもある」ことに気付き、その葛藤の中でどう他者と協働していくべきか?を考えることになるのではないでしょうか。
 
Facebookで意見を募ったときに「道徳の授業で学んだことはあまり記憶にないけれど、いい話を聞いたような気がする」という印象を述べた人が少なくなかったのは、将来、実生活の中で役に立つ内容ではなかったから、というのが一因だと思います(わたしも「さわやかさんくみ」観たなぁ・・・ぐらいしか覚えていません。それはそれで楽しかったですが)。
 
■現在の日本の学校教育における限界
 
とは言え、人権教育を日本の学校教育の中で実践するうえで難しい点もいくつかあります。
 
・市民革命を通じて人権宣言を採択したフランスなどとは異なり、日本では「人権とはや闘争の末に勝ち取るもの」という意識が薄い
(部落問題をめぐる政治的闘争はあったもの、全国的に広がりを見せた運動ではない)
 
・「人権」は個人間だけの問題ではなく、人権侵害の主体となりうる国家vs権利を主張する市民という対立構造も生むため、国家に対する批判的姿勢も人権教育を通じて育まれるべきだが、教育カリキュラムが政府主導であり、学習指導要領が(実質)法的拘束力を持つ日本では、学校で教師が教えられることに限界がある(ゆえに、「思いやりの心」のような無難な内容になりがち)。
 
・人権教育には教師の指導力が問われるが、ただでさえ忙しい学校の教師が人権について体系的に学び、それを生徒たちに教えるということは容易なことではない(「正解」がない内容であるからこそ、より一層教えるのが難しく、学校や教師の経験によって差が出てしまう)。
 
など。
 
これらの課題については、今後の大学院での研究生活、また修了後のキャリアを通じて考えていく必要がありますが、上辺だけではない人権教育を実践するためには、政府・学校・地域・家庭の連携だけでなく、NGOなどの民間組織との協働が不可欠だろうと個人的には思っています(わたしがNGOの業界に身を置いている理由の一つは、ここにあります)。
 
■まとめ
 
「道徳教育」と言うと、「優しさ」「思いやり」などの心理的側面が強調されがちですが、「モノカルチャー社会」として捉えられることが多かった日本社会でも、今後ますます多様化が進み、それだけでは対応できない問題も出てくると思います。国内だけでなく、グローバリゼーションが進む国際社会全体の課題でもあります。
 
だからこそ、人間が平等に持っている「人権」の尊重を前提に、それを守るためにどう行動するべきなのか?を大人も子どもも(政府も市民も)一緒に考えなければいけない時代を迎えている、というのがわたしの考えです。
 
これからも「人権教育」(Human Rights Education)はわたしの研究&キャリアのテーマであり続けると思いますので、いろんなご意見やアドバイスをいただけたら幸いです。
人権教育に積極的に取り組まれている学校などあれば是非知りたいなぁなんて考えています(部落問題→同和教育の流れから、関西の方にそういう学校が多い気もします)。
 
長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
未熟ながら、大学院生活後半も真摯に学んでいきます。
 
[photo by charlottelovey.blogspot.ca]

パートナーシップに欠かせないのは「プロデュース」の視点

 
先日、GiFT(一般社団法人 グローバル教育推進プロジェクト)のオフィスにお邪魔し、事務局長の辰野まどかさんにグローバル教育のお話を伺ってきました!
 
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「ヨークで地球市民教育を勉強する!」と決めてから、関連する人や団体にコンタクトを取ってきたのですが、GiFTは特に私がビジョンに共感した団体のひとつ。
 
GiFTがほぼ毎月開催している「多様性ダイアローグ」にも参加させていただいたことがあります。
 
今回、お忙しいところ無理を言ってまどかさんにオフィス訪問のお時間をいただき(ありがとうございます!)、地球市民教育を研究するうえでのヒントをたくさんいただきました。
 
そのほかに、GiFTが企業や他団体と協働して事業を進める時に大切にしている視点のお話がとても勉強になったので、メモ的にブログに残しておこうと思います。
 
■一緒に仕事する人を輝かせる「プロデュース」の視点
 
わたしがGiFTに感じている魅力は、一見「グローバル教育」とは関係がなさそうな人や団体とも積極的にコラボしているところ。
たとえば、これまでに大学や文部科学省といった教育関係機関だけでなく、IT、製薬会社などの他分野企業とも協働事業を行っています。
また、最近では渋谷区を舞台に実践女子大学 × GiFTの公開市民講座(3回連続講座)も開催しています。
 
「使っている言語(専門用語など)が違っているだけで、根底では人材育成や教育事業など共感できるものを持っていたりするもの。GiFTとしてのビジョンは持ったうえで、時間をかけてお互いの強みや想いを共有し、相手が求めているものを丁寧に汲み取り、お互いにとってメリットがある形で事業をデザインしている」とまどかさん。
 
また、企業などと協働する際には、「経営者の過去のインタビュー記事を徹底的に読み込み、GiFTと一緒に事業をやれそうなテーマを抽出するそうです。
 
まどかさんにとって「誰と仕事するか?」というのが最も大切なことで、「ただの参加者よりもパートナーとして仕事する方が断然面白い!」ので、それを実現するために「自分たちが魅力的だと感じた人をどの舞台だと生かせるか?」を考える「プロデュース」の視点を常に持っている、というお話が印象的でした。
 
■自分にできることを自然体でやる
 
まどかさんがGiFTをたった一人で立ち上げた時には、「自分が何でも完璧にできないといけない」と思っていたので、事務を手伝ってくれていたメンバーには「取りつく島がない・・・」と言われたほど。
でも徐々に、「自分ができることを自然体でやって、できないところは仲間に助けてもらえばいいんだ」とわかり、肩の力が抜けました。
 
たとえば、まどかさんがGiFTを始める前に在籍していたコーチング会社は「どベンチャー」だったので、ほぼ全ての部署の仕事を経験し、「こうやって企業が成り立つんだ」と体感できたそうですが、唯一、経理担当の部署には回されなかったため、今でも数字に苦手意識があるのだとか。
でも、今ではGiFTには経理のスペシャリストがいるので、まどかさんはその方を信頼して委ねています。
 
(余談ですが、「わたしは赤十字で2年間、会計課で働いていたものの、そんなに数字が得意じゃないんですよね~(笑)」と話したところ、「でも、少し理解があるうえで人に仕事を頼むのと、何もわからないのとでは全然違うから!その経験がきっとどこかで活きるよ~。数字を読めないと、人を巻き込めないから」と。そうであることを願います・・・)
 
■未来よりも、「今」しかない
 
最後に、まどかさんに「今後のGiFTの目標はありますか?」とお聞きしたところ、「特に考えないようにしている」との答えが。
「未来を見すぎると、『もっとすごいところに行かなきゃ』と気が急いてしまい、“今”にいられないことがよくある。『今の連続が未来につながる』と信じて、一つひとつ進んでいきたい」と話してくださり、「焦らず頑張ろう」とわたしも思うことができました。
 
また、「せっかくこれだけリスクを背負って事業をするなら、自分たちを実験台にしてより心地よい働き方、生き方を追求していきたい」と。
これまで様々な場所で多様な働き方をしてきたまどかさんならではの、ワクワクするような言葉でした!
 
他にもいーっぱいお話をお聞きしたのですが、特に残しておきたいと思ったことを書いてみました。
わたしが帰国したら、GiFTと一緒に何かお仕事できるように、(でも「未来」ばかり見すぎないように)頑張ろう!
 

わたしが英国・ヨークで「地球市民教育」を研究するワケ

 
「実央って、イギリスに留学して何を勉強するの?」
と、良く聞かれるので、ブログに書いてみようと思います。
 
わたしは、ヨーク大学の“MA in Global and International Citizenship Education”という修士課程に在籍することになっています。日本ではまだあまり耳慣れないかもしれませんが、「地球市民教育(もしくはグローバル市民教育)」と呼ばれることが多いです。くわしい内容については、後で書きたいと思います。
 
■地球市民教育を学ぼうと思った背景
 
学生時代、わたしはSave the Children JAPAN(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)という国際NGOにユースメンバーとして2年半在籍し、「子どもの権利」について同世代の人に啓発する活動などに携わっていました。
 
大学卒業後に入社した日本赤十字社では、青少年・ボランティア課に配属され、10~80代の幅広い年齢層のボランティアさんに対するリーダーシップ研修などを担当。後から聞いたところ、学生時代の経験を踏まえて配属してもらえたようです。
私は特に、高校生や大学生を対象としたユース(青少年)教育に力を入れたいと考えていましたし、彼らと一番年齢の近い立場でもあったので、研修プログラムの企画や、海外の赤十字社が主催する国際交流キャンプに日本の大学生を派遣する際のサポートなどを主にさせてもらっていました。
 
研修初日は自信がなさそうだった大学生が、3~4日間のプログラムを終えてイキイキとした表情を見せてくれたり、海外経験が全くなく、口数も少なかった高校生が、とても頼もしくなってマレーシアから帰ってきてくれたり。人材育成というのは、すぐに結果が出るものではありませんが、それでも「人の成長をダイレクトに感じられる」仕事でやりがいを感じていました。
 
一方で、年間の事業スケジュールがパンパンに詰まっているので、なかなか研修の内容を見直すことは難しく、結局今年も昨年を同じプログラムを繰り返す・・・という忙しないサイクルに疑問も感じていました。また、異動が2~3年に一度と結構頻繁なので、長期的なスパンでユース教育を考えることが難しい状況でもありました(結果、わたしも2年で異動となりました)。
 
「グローバル/ローカルな課題解決に貢献できるユースを育てるには、どんな教育手法が効果的なのだろう?」
「赤十字以外の団体は、どんな研修ノウハウを持っているのだろう?」
「ほかの国では、もっと進んだ取り組みがあるのではないか?」
 
もっと勉強したいと思ったわたしは、入社3年目に会計課へ異動となったあとも、休日を利用して教育関係の文献を読み漁ったり、他団体(開発教育協会日本YMCAなど)の研修に参加したりしていました。
 
そうするうちに出会ったのが、イギリスで研究が盛んな「地球市民教育」という概念でした。
 
■地球市民教育とは?
 
「地球市民教育(Global Citizenship Education)」とは、簡単に言うと「地球規模の課題について学び、考え、解決のために自ら行動できる市民を育てる参加・体験型学習」のこと。日本では、そもそも「市民」という概念があまり身近なものではないのでわかりづらいかもしれませんが、イギリスでは“Citizenship”(=市民教育)という科目がナショナル・カリキュラムに組み込まれており、①責任ある社会的行動、②地域社会への参加、③民主社会の知識・技能の習得・活用が主な構成要素となっています。
 
グローバル化が進む近年では、一人ひとりの行動が国境を越えて影響を及ぼすため、「市民」がイギリス国内だけで収まる概念としては捉えにくくなっており、地球に住む一市民としての意識を育てる「地球市民教育」という考え方にシフトしつつあります。
 
地球市民教育を通じて、子どもたちが具体的に何を学び、どんな力をつけることが目標なのか?
これは、Oxfamのウェブページに簡潔にまとまっているので、そこから引用します(原文はこちら)。
 
【知識と理解】
・Social justice and equity (社会正義と公正)
・Diversity (多様性)
・Globalisation and interdependence (グローバリゼーションと相互依存)
・Sustainable development (持続可能な開発)
・Peace and conflict (平和と対立)
 
【スキル】
・Critical thinking (クリティカル・シンキング=批判的思考法)
・Ability to argue effectively (効果的に議論する能力)
・Ability to challenge injustice and inequalities (不正と不平等に立ち向かう能力)
・Respect for people and things (人や物に対する敬意)
・Co-operation and conflict resolution (協働と紛争解決)
 
【価値と態度】
・Sense of identity and self esteem (アイデンティティと自己肯定意識)
・Empathy (共感)
・Commitment to social justice and equity (社会正義と公正への関与)
・Value and respect for diversity (多様性の評価と尊重)
・Concern for the environment and commitment to sustainable development (環境への配慮と持続可能な開発への関与)
・Belief that people can make a difference (人々が変化を起こせるという信念)
 
■「ダイバーシティ」と「アイデンティティ」
 
わたしが地球市民教育に特に惹かれたのは、「ただ知識として学ぶだけでなく、行動に繋げるための教育」であり、「アイデンティティや自己肯定意識を育む」という点です。
 
赤十字やYMCAのプログラムで志あるユースにたくさん出会ってきましたが、彼らにとって「地球規模の課題」はあまりに大きく、知れば知るほど自分の無力さを感じ、結局どう行動したらいいのかわからないまま就職活動の波に飲み込まれ、自信を失っていく・・・という子たちをイヤというほど見てきました。
 
おそらくそれは、「自分自身と向き合う機会」がないまま、エントリーシートの書き方やら面接の攻略法やら「企業から内定を獲得するための小手先のテクニック」を教えることが中心になってしまっている日本のキャリア教育にも問題があるのでは、とわたしは思っています。
 
また、日本で「グローバル人材育成」と言うと「小さい頃から英語を身に付けよう!」といった方向に話が行ってしまっているように感じます。
でもわたしが追求していきたいのは、「グローバルな視点で『外の世界』と関わりながら、『内の世界』とも向き合って自分自身の役割や存在意義を見出せる」ような人材育成・キャリア教育のあり方。地球市民教育の考え方は、そのヒントになりうると考えています。中でも、自分の「アイデンティティ」を意識したうえで、「ダイバーシティ(多様性)」を尊重していくためにはどのような働きかけが必要か?ということに関心があります。
 
■将来、実現させたいなと思うこと。
 
☆地球市民教育をベースとした、高校生・大学生向けキャリア・ライフデザインのワークショップの開催。
☆グローバル教育・ユース育成に注力しているNGOやNPOと協働した研修プログラムの開発。
☆もっと先の将来は・・・本の執筆や、大学で教鞭を取ること。
 
1年後、全く言っていることが変わっているかもしれないけれど(笑)、現時点での野望です。
 
イギリスは、政権交代(労働党→保守党)によって教育分野に配分される国の予算が減少しているなど、研究するにあたってベストな状況ではないと聞いているのですが・・・
ヨーク大学は地球市民教育の研究が特に進んでいること(論文の引用件数も多い)、ヨーク自体がフェアトレード・シティであることなどから、ここで1年間過ごせることを楽しみにしています。
 
Derwent_College

http://www.geograph.org.uk/photo/1556181

 
■地球市民教育の基本情報
 
もし、ちょっと地球市民教育に興味あるかも、という方のために。
基本的な情報を得られるウェブサイトを下に載せておきますね!
 
【日本語】
市民教育|世界をみる|開発教育協会
【地球市民を育む教育】トップページ|常磐大学
イギリス 多様な教育と子どもたち 第15回 シティズンシップ・エデュケーション(市民教育)|CHILD RESEARCH NET
 
【英語】
National curriculum in England: citizenship programmes of study – Publications – GOV.UK
Global Citizenship | Oxfam Education
Education for ‘Global Citizenship’|UNESCO
UN Global Education First Initiative – United Nations Secretary General’s Global Initiative on Education – 3. Global citizenship
 
【追記(2015年1月)】
渡英後、研究の参考にしたウェブサイトなど、シティズンシップ教育の関連リンクをまとめました→【随時更新】英国のシティズンシップ教育(市民教育)関連リンク集
 
いよいよ、今月22日に渡英です。現地からもいろいろレポートできるように頑張りまーす!