├イギリス大学院留学

食材は廃棄寸前の商品、料金設定なしのコミュニティカフェを訪れました

 
「捨てられるはずだった」食材を使った週替わりランチを提供する「yourcafe」というコミュニティカフェへ行ってきました!4月29日から6月3日まで6週間限定(水曜日のランチのみ)で、ヨーク大学から徒歩15分ほどのところにあるTang Hall Community Centreというコミュニティセンター内で運営されています。
 
IMG_8162
 
IMG_8161
 
このカフェは、リーズから始まったThe Real Junk Food Project(以下、TRJFP)というムーブメントが発祥。Waste and Action Resources Programme (Wrap)の統計によると、毎年イギリスで廃棄される食料は約1,500万トン(190億ポンド相当)。一方で、The York Pressの記事によると、食料に飢えている人々を支援するために地方自治体が過去2年間で支出した金額は300万ポンド。つまり、大量の食料廃棄が発生している一方で、貧困のため満足に食べられない人々がいるという現状があり、このことに対する問題意識を高めることがカフェの一つの目的です。
 
youcafeで提供される料理は、すべて個人や地元の小売店から引き取った廃棄寸前の食材なので、その内容によってメニューが変わります。わたしが訪れたときのメニューはこちら。
 
IMG_8146
 
*ハムサンドイッチ
*ブロッコリースープ(ベジタリアン)
*トマトソースパスタ(ヴィーガン)
*ライス
*グリーンサラダ
*フルーツ・クランブルのカスタードソースがけ
*ブラン・ケーキのプラムジャム添え
*アソートケーキ
*グレープフルーツ・ソルベ
*ティーケーキ
*コーヒー・紅茶(おかわり自由)
 
わたしはパスタとクランブルをいただきました^^♪
 
IMG_8160
 
IMG_8153
 
どちらもとてもおいしかった♥食後には紅茶も。
 
このカフェのもう一つの特徴は、料理に金額が設定されておらず、自分が払いたいと思った分だけ支払う(Pay As You Feel)システムになっていること。出口のところに置いてあるボックスにお金を入れるのも良し、このカフェで調理や掃除、食器洗いなどのボランティアをするのも良し。わたしは今回お金で支払いましたが、今度は何かお手伝いしたいな~と思っています。ちなみに、この日カフェで働いていた方々も、みんなボランティアでした。
 
このカフェの目的は「食料廃棄に対する人々の問題意識を高める」と同時に、「おいしい料理をみんなで食べられる場をつくることで、地域コミュニティでの孤立化を防ぐ」ことなので、たとえお金がなくてもフラッと立ち寄れて、地元の人たちとの会話を楽しめるというのは良いなぁと感じました。ともすれば生活圏が大学のキャンパスのみにとどまりがちな学生にとっても、地域住民とコミュニケーションを取る機会になると思います。わたしも、同じテーブルで相席になったジョン、クレアと楽しくおしゃべりしながらランチできました!
 
子ども用の背の低いテーブルも用意されていて、双子ちゃんが仲良く食事していました^^なごむ・・・
 
IMG_8158
 
ちなみに、個人から寄付されたお菓子やお米(賞味期限が近かったり、少し過ぎているもの)が置いてあるテーブルがあり、これも”Pay As You Feel”で持ち帰ることができます。わたしもビスケットをゲット♥
 
IMG_8145
 
**********
 
とても素敵な取り組みですが、カフェを取り仕切っているマーガレットと話す中で挙げられた課題もいくつかありました。
 
・個人の意識だけでなく食料を扱う大型店舗の仕組みを変えるには?
→ほとんどのスーパーマーケットは、衛生管理に関する厳しい取り決めがあるため、賞味期限が過ぎたものを寄付してもらうのは難しいとのこと。もう店頭で販売できない商品であっても、ごみ箱から「盗まれる」のを防ぐためにわざわざ毒性のある薬を散布する店舗もあるとか。そのため、たくさんの食料を取り扱うスーパーの廃棄問題を解決するにはまだ道のりは遠いけれど、カフェを訪れるお客さんの意識が変わることで、家庭から廃棄される食料の量は減らせるという期待は持てます。
 
・コストや食材調達などの問題がある中、継続的な運営をしていくには?
→ヨークのyoucafeは6週間限定、水曜日のみのトライアル・オープン中。この期間に多くの人々に知ってもらえれば、今後長期的な運営も可能かもしれませんが、これが初めての取り組みなので、最初はまだ様子見とのこと。わたしは、週1日だけでも地元の人が集うことができる場所がある、というのはコミュニティの繋がりを強めるという意味でも良いことだと考えているので、大学の友人たちにたくさん宣伝していこうと思っています^^
 
・地域コミュニティから孤立しがちな層(お年寄りなど)にどうカフェのことを知ってもらうか?
→今回の取り組みについては地元の新聞に取り上げられたり、ボランティアスタッフが積極的に友人を呼んだりすることで、先週のオープン時はとても賑わっていたそうですが、今週はあいにくの天気だったということもあり(イギリスの雨は珍しくないですが・・・)、そこまで混み合っていませんでした。コミュニティ・センター自体が、街の中心地から結構離れた所にひっそり建っているので、いかに口コミでカフェの存在を広めていくか、というのが課題だと感じました。
 

**********
 
食料廃棄の問題は、日本も他人事ではありません。
農林水産省発表のデータによると、日本では、年間約1,700万トンの食品廃棄物が排出されており、このうち、本来食べられるのに廃棄されている「食品ロス」は、年間約500~800万トン含まれると推計されています(平成22年度推計:平成25年9月「食品ロス削減に向けて~「もったいない」を取り戻そう!~」より抜粋)
 
食料廃棄の問題への取り組みとしても、また地域コミュニティにおける場づくりという意味でも、今回訪れたyourcafeから学べることは沢山ありそうです。また何か面白いプロジェクトがあれば、ブログに書きたいと思います。
 
☆廃棄寸前の食料を使ったコミュニティカフェに関心のある方は、オルタナSさんのこちらの記事もご参考に↙↙
売れ残りのジャガイモが食材!? 廃棄食料によるカフェ英国で | オルタナS
 
☆食品ロス(フードロス)を引き取り、人々へ届ける活動を行う日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」さんについてはこちら↙↙
SECOND HARVEST(セカンドハーベスト・ジャパン)
 

春学期(1~3月)の授業&活動まとめ

 
秋学期(9~12月)→クリスマス休暇(という名のレポート月間)→春学期(1~3月)→イースター休暇(という名の・・・)を経て、課題エッセイを先日提出しました(4月中旬)!わたしはプリセッショナルコースから受講しているので、7月下旬に渡英してからもうすぐ9ヶ月が経ちます。大学院留学生活も、残り半年を切りました。あっという間だな~。一息ついたら、修士論文の執筆に取り掛かります。
 
イギリスの冬は暗くて寒い・・・と良く言いますが、今年は比較的マイルドな気候だったようです。雪も積もるほど降ることはほとんどありあませんでした。3月下旬からだんだんと暖かくなってきて、うれしいです。キャンパス内を気持ちよく散策できる季節です♪
 
green campus
 
さて、また一区切りついたので、春学期の授業&活動についてまとめてみました。
(秋学期のまとめはこちら→「秋学期(9~12月)の授業&活動まとめ」
 
■Spring Term(春学期:1~3月、10週)の週間スケジュール
 
↓1週間のわたしのスケジュール。実際は、週によって異なりますが、わかりやすく表にするとこんな感じ。
spring schedule
相変わらず、自習(Self study)の時間が多いです。学部によっては毎日授業がありますが、わたしの在籍している教育学部は、いかに自分を律してうまく時間管理するか?がカギになると感じます。
 
「勉強は楽しいけれど、何となく自分のいる環境が物足りない」と感じていた秋学期と比べて、春学期は新しい活動が増え、学部やキャンパスの枠を越えて交友関係が広がり、留学前に抱いていた問題意識を学術的観点から捉え直すことでモヤモヤが晴れてきて・・・充実した3ヶ月間を送ることができました^^昨年10月に始めたカフェバイトも、だいぶ慣れてきました!(もう、コーヒーマシーンを操作するのもコワくない!)
 
■新しく始めたこと①:教育系NGOでのインターンシップ
 
すでにブログに書きましたが、2月からグローバル教育センター(Centre for Global Education York)という教育系NGOで週1回のインターンをしています。学校の教師や生徒向けにグローバル教育のワークショップを開いている団体で、わたしがしているのはその運営やSNS管理の補佐業務です。オフィスで作業することもあれば、ワークショップ開催のために学校を訪問することも。オフィスは、ヨーク・セントジョン大学という、中心街(City Centre)の方にある大学のキャンパス内にあるので、毎週バスで通っています。
 
修士課程でもグローバル教育・シティズンシップ教育(市民教育)について理論的に学んでいますが、各学校でどのように実践しているか・どんな課題があるか・それをNGO(チャリティ団体)がどうフォローしているかということをインターンを通じて見聞きできるうえ、グローバル教育センター主催の教師向け研修は無料で参加させてもらっているので、とてもありがたいです。
 
■新しく始めたこと②:スカッシュ!!
 
週1回、GSAという学生組織が主催するスカッシュの無料セッションに参加し、汗を流しています。日本ではスカッシュをやったことがなかったのですが、バドミントンより少し難しいけれどテニスよりはやりやすい(個人的な印象)という感じで、ハマっています^^毎日毎日勉強ばかりしていると身体がなまるので、定期的に運動する機会を作ることは大切だな~と。夏学期も続けたいと思っています。
 
squash
 
■新しく始めたこと③:スペイン語レッスン
 
実は、秋学期に思い付きで受講し始めた古典ラテン語のクラスに出るのをやめました。ラテン語も意味がわからないなりに(笑)楽しかったのですが、春学期は「いま本当に自分が時間を費やすべきことに注力する」と決めたためです。その代り、授業が入っていた時間(水曜日の午前中)はPhD(博士課程)や他のMA(修士課程)の学生とお茶をしながら情報交換することに。「この人の研究テーマ、自分の関心と共通する所が多そう!」と思う人に出会ったら、とにかくお茶やランチに誘っていました。
 
ラテン語の学習は継続していないものの、もともと新しい言語を学ぶのは好きなので、たまたま友人から誘われて、別の友人(メキシコ出身)が開いてくれていたスペイン語のレッスンに毎週参加するように。わたしは大学時代にフランス語を学んでいたのでスペイン語は比較的頭に入りやすく(たまに混ざるけど)、毎回のレッスンでさまざまな学部の子たちと交流できることが良い機会になりました!
 
■新しく始めたこと④:他学部主催の公開講義・イベントへの参加
 
わたしが在籍しているのはMA in Global and International Citizenship Education(グローバル市民教育)というコースなのですが、上にも書いたスペイン語のレッスンや、わたしの必修モジュールを他学部から受講していた友人にMA in Applied Human Rights(応用人権学)在籍の子が多かったので、彼女たちと一緒に公開講義や学外のイベントに参加するようになりました。わたしも、シティズンシップ教育を研究するうえで人権教育(Human Rights Education)の視点も持っているべきだと考えているので、自分の関心テーマを積極的に周りに伝えることで、関連する情報を多く得られるようになりました。Facebook上でイベントページが作成されることも多いので、お互いに追加し合うのが習慣になっています(毎日のように何らかのイベントへの招待が届くので、取捨選択も必要ですが!)。
 
・・・さて、ここからは春学期の授業内容&エッセイ課題について書きたいと思います。
 
■Compulsory Modules(必修モジュール)
 
☆ Teaching and Learning Citizenship and Global Education(シティズンシップ教育&グローバル教育の教授と学習)
・Credits(単位):20
・Assessment value(成績比重):12.5%
・授業形式:講義(週1・120分)
・評価方法:イースター休暇明けにエッセイ(レポート)提出(4-5,000 words)
・内容:
 コースの核となるモジュール。秋学期は「シティズン(Citizen)」という概念の歴史的・理論的側面が焦点でしたが、春学期は(主にイングランドで)どのようにシティズンシップ教育が実践されているか、を学びました。以下、講義の一例です。
 
・教義の植えつけ、洗脳をどう回避するか
・主要教科(歴史や国語など)を通じた実践
・スクール・カウンシル(学校の生徒会)を通じた実践
・模擬選挙を通じた実践
・地域活動を通じた実践
・カナダ・オーストラリア・イングランドの教科書の分析
・シティズンシップ教育をどう評価するか
 
一応、モジュールのタイトルにはグローバル教育も含まれているものの、9割方、シティズンシップ教育についてでした。そのため、「グローバル」という名前に惹かれて受講した他コースの学生にとっては期待外れだったかもしれません。
秋学期と同様、毎週、講義の前にプレゼンをする担当者が決められていて、わたしは模擬選挙のプレゼンを担当しました。
 
最終エッセイのテーマは複数の中から選択でき、わたしが選んだのは「グローバル教育とシティズンシップ教育は同じかどうか?」。実は、教授(Ian Davies)が同じトピックでジャーナルに寄稿しているので、それとは新しい視点でエッセイ書くぞ!と意気込んで選んだのですが・・・むずかしかった・・・(涙)
 
グローバル教育とシティズンシップ教育の微妙な関係については、またあらためてブログにまとめられたらと考えています。修士課程でシティズンシップ教育を学ぶようになってから、日本で仕事していたときに当たり前のように使っていた「グローバル市民(地球市民)教育」という言葉が持つ(可能性のある)矛盾について深く考えることができたことは、大きな収穫でした。
 
■Optional Modules(選択モジュール)
 
☆ Contemporary Issues in Teaching(教育の現代的課題)
・Credits(単位):20
・Assessment value(成績比重):12.5%
・授業形式:講義(週1・120分)
・評価方法:イースター休暇明けにエッセイ提出(4-5,000 words)
・内容:
 わたしの指導教官が統括する、オムニバス形式(毎週、異なる先生が講義を担当する形)のモジュール。さまざまな教育の課題について幅広く知れたので、興味深かったです。一方で、各回の関連性があまり明確でない(それぞれの教授が自分のテーマを自由に講義する感じ)・学校教育にばかり焦点を当てすぎている、という点は残念に感じました(と、授業のフィードバックにも書きました)。
 
たしかに、教育のMAに在籍する学生(特に中国の子たち)は将来学校の教師になりたいという人が多いので、需要は多いのだと思いますが、「教育」は学校という枠にとらわれるべきではないと思うので・・・。3週目ぐらいから、「わたしはノンフォーマル教育に携わってきて、帰国後もその分野で仕事していきたいので、学校教育だけでない事例も取り扱ってほしい」と毎回の担当教授に伝えるようにしていました(講義のリクエストは、積極的に言うべき!理由が明確であれば、対応してくれる教授も多いです。また、個別に参考資料を送ってくださる方もいて、ありがたかったです)。以下、取り扱ったテーマの一例です。
 
・新任教師の課題
・学校における暴力
・評価方法
・生徒の健康と安心(Well-being)
・教師のモチベーションと満足度
・教室外での学習(Learning Outside the Classroom=LOTC)
・教室での言語
・トラブルを抱える生徒への支援
 
最終エッセイのテーマは選択式ではなく、自分で考えることになっていたので、休暇に入ってからもしばらく悩んでいたのですが・・・わたしは「移民の子どもたちを含むインクルージブ教育をどう促進するか?」という問いを立てて書きました。
 
内容としては、外国にルーツを持つ子どもたちの言語的な課題に焦点を当て、イングランド・フランスで実践されている言語教育を比較・分析したうえで、協働教育(Collaborative Education)やフィンランドで取り入れられている全身反応教授法(Total Physical Response)などが持つ可能性を示しました。
 
移民問題は、ヨーロッパでも長年の大きな課題であり、近い将来、日本でも取り組まなければならないことだとわたしは考えているので、個人的にはかなり関心のあるテーマなのですが、エッセイとしてのまとまりは、ちょっと自信がない・・・。悔しいなぁ。でも、今後も研究を続けていきたいテーマに出会えたことは大きな意味がありました。
 
ちなみに上記3つのモジュールの成績は、Spring term(春学期)の7週目(5月下旬)に発表されます。
 
■修士論文執筆に必要なモジュール
 
☆ Planning and Communicating Research(リサーチの計画と実践)
・Credits(単位):20(春&夏学期にまたがる)
・Assessment value(成績比重): ―(Pass/Failのみの評価)
・授業形式:講義(週1・120分)・たまにセミナーもあり
・評価方法:夏学期に提出の修士論文プロポーザル・倫理監査フォーム・口頭プレゼンテーション
・内容:
 修士論文執筆のためのリサーチの基礎を学びました。教育学部のMAに在籍する全学生(約200名)が一斉に大教室で受ける講義だったうえに、秋学期に受けたリサーチ・メソッドと内容が重複するところも多く、個人的にはあまり満足しませんでした・・・。もちろん、修士論文に関連して提出するべき書類がいくつかあるので、そういった情報を得るのには必要な授業でしたが、自分のプロポーザル(企画書)については個人的に早めのペースで進め、指導教官やPhDの学生にアドバイスをもらって仕上げてしまいました。
 
■その他(成績には入らないモジュール)
 
☆ Departmental English(英語)
・授業形式:セミナー(120分)
・内容:
秋学期はアカデミック・ライティングに重きが置かれていましたが、春学期は口頭プレゼンテーションの組み立てや練習が主でした。英語で、しかも人の前でプレゼンすることにニガテ意識があるという人にとっては役に立つモジュールだったかもしれません。わたしは正直、これ毎週やる必要あるのかな?と疑問はありつつ、授業の進め方が上手なチューターに恵まれたので、無駄だとは思いませんでした。別のクラスだった友人は、口をそろえて「あれ意味ない!!」と不満げだったので。
 
**********
 
わたしが春学期にしていた主な活動、授業はざっとこんな感じです。成績が発表される前に予防線を張るようなことは言いたくないのですが、今回は手ごたえがあまりなくて不安・・・(もちろん、単位を取れる=50点もらえるかどうか、の心配ではなく、Distinction=70点取れるかどうか、という意味です)。すでに秋学期の結果から採点の基準をなんとなくわかっているだけに、「う~ん!」という感じですが、ここからまた気持ちを切り替えて、修士論文の準備を再開します。
 
エッセイを提出した翌日に指導教官から「来週、ミーティングやるよ!」とメールが来て、「あ、休んでるヒマはないのね~」と一瞬で現実に引き戻されました。ありがとう、クリス・・・(笑)
 

「英国的価値観」を学校でどう教えるか?【後編】

 
先日参加した、“Exploring British Values(英国的価値観の探究)”というテーマの教師向けワークショップレポートの続きです。前編はこちらから⇒「英国的価値観」を学校でどう教えるか?【前編】
 
英国政府が全ての学校に義務づけている「英国的価値観」の推進。そもそも「価値観」とは何なのか?それを学校でどのように教えればいいのか?ということを考えるレクチャー、グループワークをいくつか受けたので、その内容をご紹介します。
 
 
(1)「価値観」の定義とは?
 
・行動するうえでの主義、基準:人生において重要だと判断するもの
 
・価値がある、もしくは望ましいと考えられる主義、基準、もしくは質
 
・組織の倫理的な理想、そして個人が重要だとみなす理想
 
★「自分が生きるうえで大切にしているものは何か?」を考える。
★価値観は、わたしたちの姿勢、行動すべてに影響する、ということを認識する。
 
 
(2)価値観のランキング
 
各グループに配られた封筒の中には、12枚のカードが入っています。それをダイアモンド・ランキング(下図を参照)の形に並べるワーク。グループで話し合い、重要だと思う順に上から並べます。つまり、用意されたカードのうち、3枚はランキングに入りません。なお、白紙のカードも入っているので、新しく言葉を追加してもOK。
 
  ×
 × ×
× × ×
 × ×
  ×
 
入っていたカード:大志、清潔、有用性、お年寄りを敬うこと、平和、人生を楽しむこと、美しさ、平等、友情、愛、自然との調和、富
(リソース:
http://www.time2think.org.uk/Resources/T2T%20What%20Are%20My%20Values.pdf
 
★グループメンバーの中で、意見が一致する部分、一致しない部分がある。
★グループによって、「最も重要」「ランキング外」とするものが異なる。
★「お年寄り」に限定せず、「他人に敬意を払う」ことを上位に持ってきたグループも。
★「家族」「安全」などの言葉を追加したグループが複数。
★価値観とは、各人のニーズ、目的を反映することがわかる。
 
 
(3)価値観はどこから来るの?
 
模造紙に何重か円を描き、中心に自分がいると仮定して、価値観に与えていると思うことを書く。影響が大きいものほど、中心に近い円の中に書きこむ。
 
★人:家族、友人、同僚など/場所:教会、学校、職場、地域サークルなど/その他:メディアなど
★その他:過去の経験、年齢、文化背景、収入、政府、社会的ムーブメントなども影響する。
(その時の状況によって、価値観は変わりうる)
 
values_influence
(リソース:The Common Cause Handbook p.30)
 
 
(4)価値観に関する国際調査(World Value Survey)
 
Inglehart–Welzel Cultural Map:各国の価値観を、①「伝統的価値観 VS 非宗教・合理的価値観」、②「生存重視の価値観 VS 自己表現重視の価値観」という2つの軸でマッピングしたもの。
 
伝統的価値観(Traditional values):宗教の重要性、親子の紐帯、権威への忠誠、伝統的な家族の価値観を重視。
非宗教・合理的価値観(Secular-rational values):伝統的価値観の対極。離婚、堕胎、安楽死、自殺などが比較的受け入れられている(ただし自殺については一般的とは限らない)。
生存重視の価値観(Survival values):経済的・物理的安全が重視される。民族としての展望、貧困、信用や寛容さの低さなどが影響している。
自己表現重視の価値観:環境保護、外国人に対する寛容さ、ゲイ、レズビアン、ジェンダー平等、経済的・政治的な意思決定への参加に対する需要向上などに高い優先順位をつける。
 
たとえば・・・
イギリス:①伝統的・非宗教的の中間、②生存重視<自己表現重視
日本・・・①非宗教的な傾向が強い、②自己表現重視<生存重視
というように位置付けられている。
 
Inglehart_Values_Map2_svg
(リソース:WVS Database
※元の画像が小さくて見にくいのですが・・・!
 
★このマップを見て、感じたことをグループで話し合う(「本当に日本はこの位置だと思うか?」など聞かれました)。
★イギリスの多文化的な状況を考えると、果たしてこの価値観は当てはまるのか話し合う。
★イギリスという一つの国に、多種多様な民族的・文化的背景を持つ人々が暮らしている中で、「共通の価値観」というものは決めることはできるか?
★また、世代によって大きな差があるのではないか?
 
 
(5)文化の氷山モデル(The Cultural Iceberg)
 
これは有名なので、見たことがある人も多いかもしれません。「文化」を氷山にたとえたモデルです。
 
Schein Iceberg
(リソース:Organisational Culture – OC Models and Concepts
 
★文化とは、明らかに見える部分(明文化されたルールや戦略など)と、目に見えない部分(価値観や信条、無意識のうちに当然とされているもの)で構成されているため、外からでは完全に理解することが難しい、ということを認識しておく必要がある。
では、「英国的価値観」をどう解釈すれば良いか?(ここからが本題!)
 
 
(6)「英国らしさ(Britishness)」とは?
 
いくつか用意されたイラストの中から、「典型的な英国らしさ」だと思うものを3つ選ぶ。
(紅茶、フィッシュ・アンド・チップス、レインブーツ、ラッパスイセン、パブ、ロイヤル・ファミリー、シェイクスピアなど)
 
typically-british-wordle-wordcloud
(リソース:Word cloud tool comparison | Digital undervisning ※参考イメージ)
 
★各グループが選んだものはほぼ共通(全グループが紅茶を選んでいました)。
★ただし、性別(今回のワークショップに参加していた先生たちは全員女性)やライフスタイルにもよる。
★「クリケットはBritish(英国全体)というよりもEnglish(イングランド)では?」という意見も。
「~らしさ」には、外から作られたイメージや、偏見も含まれるかもしれない。
 
 
(7)「英国的価値観」を学校で教えるには?
 
前編の記事にも書いたとおり、英国政府は昨年、「全ての学校でBritish Values(ブリティッシュ・バリューズ=英国的価値観)が促進され、生徒のSMSC(spiritual, moral, social and cultural development:精神的、道徳的、社会的、文化的発達)が改善されなければならない」という通達を出しました。
 
その中で、「学校において、根本的なブリティッシュ・バリューズ(英国的価値観)に反する意見や行動に対して挑戦する(challenge)」ということも書かれています。
 
しかし、今回のワークショップで見てきたとおり、価値観というものは社会状況や個人の経験など様々な影響を受けて形成されたり変化するものであるため、また同じ国に住んでいても「共通の価値観」を見出すことは簡単ではありません。特に、グローバリゼーションの影響で人の移動が頻繁になり、多文化社会が進展していくと、より一層、異なる価値観を持つ人々が共存する方法を考える必要があります。
 
「英国的価値観」を共有する、ということは、「英国の市民性(Citizenship)」を持つ(狭義には、「英国のパスポート」を持つ)、ということと深い関連があります。そのため、スコットランド(Scottish)やウェールズ(Welsh)の価値観や、移民など「もともとは他の国からきたけれど、今はイギリスに住んでいる人たち」の存在も考慮する必要があります。
 
そのため、「異なる宗教・信条に対する寛容さ」を英国的価値観として学ぶべきとする一方で、「イギリスに住んでいる以上は、いかなる宗教・信条の規律よりもイギリス国家の法律に従うべき」という政府方針は、学校現場でもジレンマを生んでいます。

 
ファシリテーターのロジーナは、今回のワークショップの最後に「価値観には、一つの正解があるわけではない。学校教育に求められるのは、今日実際にやってきたように、ディスカッションを通じてそれぞれが異なる価値観を持っていることを学び、お互いに敬意を払いつつ、どう折り合いをつけていくか、という考える機会を提示すること。」と話しました。
 
また、「これまでもPSHE(Personal, Social and Health Education:人格的、社会的、健康的教育)などの授業でも部分的には教えてきたこと。新しいことを授業でやらなくては、と負担に思わなくていいですよ!」と強調していました。
 
 
(8)日本の道徳教育に共通する課題
 
「価値観」に関する教育というのは、一方通行の授業だと「刷り込み」「押しつけ」になってしまいかねませんが、今回わたしが参加したワークショップのように、自由に意見を交換し合うプロセスを通じて、自分自身の価値観が「絶対」ではないということや、ボーダーラインを引くことの難しさや、折り合いの付け方を考える機会を作ることが重要だと感じました。
 
日本の学校における「道徳の時間」も、早ければ平成30年度(2018年)から教科化される可能性がありますが、こちらの記事でも書いたとおり、単に「人に優しくしましょう」「みんなで仲良くしましょう」と教えるのではなく、「異なる価値観を持つ人たちが一緒に暮らすためには、どんなことを大切にするべきか?」という正解が一つではない問題に対して話し合う機会にするべきだとわたしは思います。そのためには、学校の教師にもファシリテーターとしての役割が求められるため、実践的な研修も必要でしょう。
 
わたしは現在、「多文化社会におけるシティズンシップ教育(市民教育)」をテーマにヨークで研究をしていますが、価値観教育にしても市民教育にしても、賛否両論を呼び起こす題材(Controversial issues)を避けて通ることはできません。学校現場においてそれをどう教えるか?というのは永遠の課題だと思います。今回のワークショップは、その一つの方法を学べたという意味でとても勉強になりました。
 
「みんなちがって、みんないい」(金子みすゞ)という言葉は素敵だと思う一方で、一つの国として連帯感を保つこともある程度必要なのか・・・このバランスは、とても難しい。あなたなら、「日本(人)らしさ」「日本的価値観」について、どう考えますか?
 
【参考になりそうな資料(英語)】
CITIZENSHIP AND BELONGING: WHAT IS BRITISHNESS?(Commission for Racial Equality)
 
Leading through Values-Pilot Report May 2013(Lifeworlds Learning)
 
Schools of Sanctuary(City of Sanctuary)
 
Positive Images(British Red Cross)
 

「英国的価値観」を学校でどう教えるか?【前編】

 
先日、わたしがインターンをしているNGO、グローバル教育センターが主催する教師向けワークショップに参加してきました。
テーマは、“Exploring British Values(英国的価値観の探究)”。この機会に学んだこと、考えたことを前編・後編に分けてレポートします!
 
keep-calm-and-promote-british-values
[Image: The KEEP KALM-O-MATIC]  
 
■「英国的価値観」とは?
 
昨年(2014年)11月27日付けで、イギリスの教育省(DfE)により、全ての学校でBritish Values(ブリティッシュ・バリューズ=英国的価値観)が促進され、生徒のSMSC(spiritual, moral, social and cultural development:精神的、道徳的、社会的、文化的発達)が改善されなければならない、という通達が出されました。どの程度各学校できちんと教えられているか、がOfsted(Office for Standards in Education:教育水準監査院)による学校監査の評価対象にもなります。
 
▼プレスリリースはこちら。
Guidance on promoting British values in schools published – Press releases – GOV.UK
 
これまでも、英国的価値観を「尊重する」ことは求められていましたが、「積極的に促進する」ことを学校に義務付けた今回の通達について、教育省政務官のLord Nash氏は、「過激主義からの防御を強化するため」と述べています。つまり、近年高まっているテロリズムの脅威、特にイスラム過激派による影響を意識した教育方針の一つということです。
 
※なお、促進の目的として「若者が現代の英国社会に参加する備えができるように」ということも掲げられており、これはすでに中等教育で必須教科になっているシティズンシップ(市民教育)の目的と重なります。しかし、「シティズンシップという教科があるのにも関わらず、そのことについて教育省の通達が一切触れていないのは奇妙だ」シティズンシップ財団は指摘しています
 
具体的に、生徒が学ぶべき「英国的価値観」として挙げられていること:
 

・民主主義的なプロセスを通じて、市民がいかに意思決定に影響を与えることができるか、という理解
・異なる宗教・信条を持つ自由は法により保護されている、という理解
・異なる宗教・信条を持つ(もしくは何も持たない)ことが受け入れられ(accepted)、許容される(tolerated)こと、そしてそれが偏見や差別的な行動の要因になるべきではない、ということへの受容
・自己認識すること(identify)と差別と闘うことの重要性に対する理解

 
こうした「価値観」について英国政府から通達が出されるのは今回が初めてではなく、これまでも世界情勢を受けて何度か戦略が立てられてきました。
 
☆2001年:Community Cohesion(コミュニティの団結)
・2001年のアメリカ9.11テロ、また同年にイギリスのブラッドフォードなどで相次いだ暴動を受けて出されたコンセプト。複数の文化が共存する社会の中で、分断されてしまっているコミュニティの団結の重要性が強調されました。
(参考:英国内務省による報告書 The Cantle Report – Community Cohesion: a report of the Independent Review Team
 
☆2011年:Prevent Strategy(予防戦略)
・テロリズムの思想的課題、そしてそれを促進する人々による脅威へ対応すること;テロリズムに人々が引き込まれることを予防し、適切なアドバイスと支援が得られるようにすること;そして急進化のリスクがあるセクターや組織と協働すること、という三本柱を持った戦略が改めて発表されました。
(参考:英国内務省による政策書 Prevent strategy 2011 – Publications – GOV.UK
 
☆2014年:Promoting British values(ブリティッシュ・バリューズの促進)
・そして昨年出された新方針。「学校において、根本的なブリティッシュ・バリューズ(英国的価値観)に反する意見や行動に対して挑戦する(challenge)」という強い表現が使われています。ここで無視できないのは、

「生徒は、何が’正しい’か’間違っている’かということについて、人々が異なる価値観を持つかもしれない、ということを理解する一方で、イギリスに住む全ての人々はその法律に従う、ということも理解するべきである。(中略)生徒は、国の法律と宗教法の違いについて自覚しなければならない」

という内容です。「宗教法」と書かれているのは、イスラム教のシャリーアを念頭に置かれてのこと。言い換えると、「異なる宗教・信条に対する寛容さ」をイギリス人の価値観として学ぶべきとする一方で、「イギリスに住んでいる以上は、いかなる宗教・信条の規律よりもイギリス国家の法律に従うべき」ということも学校で教えるよう、政府方針として述べられている、ということです。
 
さて、この政府方針を受けて、学校現場ではどのような教育アプローチを取るべきか?
これが、今回の教師向けワークショップのテーマです。
背景の説明だけで長くなってしまったので、具体的な内容については後編の記事に続きます。
 
■後編の記事で取り上げるテーマ
 
◎そもそも、「価値観」とは何か?なぜそれが重要なのか?
◎「イギリス人らしさ」、「英国的価値観」とは一体何なのか?
◎多文化社会において「国民としての価値観」をどう教えるべきか?
 
これらの問いは、日本の道徳教育を考えるうえでもヒントになるのでは、と思います。
(「日本人らしさ」「日本人の価値観」はどう学校で扱われるべきでしょうか?)
後編の記事はこちらからどうぞ→「英国的価値観」を学校でどう教えるか?【後編】
 

【JID連載①】欧州で移民排斥の極右政党台頭~テロと経済状況悪化が背景に~(2015/3/26)

 
「”ニュースの深層”を徹底解説」するウェブメディア、Japan In-Depth(ジャパン・インデプス)にて連載記事を持たせていただくことになりました。【齋藤実央のシティズンシップ論考】というタイトルで、ヨーロッパが抱える移民などの問題について、わたしが研究している市民権(シティズンシップ)の観点から考察していきます。こちらのブログに転載する許可をいただきましたので、更新され次第(月1回を予定)随時ご紹介します。
 
**********
 
[齋藤実央]【欧州で移民排斥の極右政党台頭】~テロと経済状況悪化が背景に~
投稿日:2015/3/26
記事リンク:http://japan-indepth.jp/?p=16709
 
欧州諸国では、今年に入って起きたイスラム過激派による連続テロ事件を契機に、武装グループによるテロへの不安が高まり、(特にイスラム系)移民に対する排斥傾向が強まっている。それに伴い、各国で躍進しているのが、移民受け入れに異議を唱える極右政党だ。
 
たとえばフランスでは、反・欧州連合(EU)や移民排斥など極端な思想を掲げる極右政党、国民戦線(FN)。同党は、今月22日に行われたフランスの県議会議員選挙の第1回投票で、国民運動連合(UMP)を中心とした保守系政党連合に続く得票率(約25%)を獲得した。イギリスで支持を伸ばしているのは、EUからの離脱と移民受け入れの凍結を主張する英国独立党(UKIP)。「他のEU諸国からの移民の増加により職を奪われた」ことに不満を覚える低所得層を中心に支持を集めている。英調査機関YouGovが今月21日に発表した世論調査結果によると、同党の支持率は労働党(32%)、保守党(29%)に続き第3位(18%)となっており、今年5月に行われる下院総選挙では獲得議席数を大幅に伸ばすのではないかと注目を集めている。
 
JapanInDepth_1
[写真] わたしの通うヨーク大学で行われた、学生による政党別討論会。この時期、総選挙関連のイベントが多数開催されている
 
テロへの不安に加え、経済状況の悪化や失業率の増加など国民の不満が高まる中で、それらの受け皿となり極端なナショナリズムを打ち出す極右政党が各国で支持を広げるのは、自然な流れと言える。しかし、移民を不満のはけ口にするだけでは根本的な問題解決にはならない。以下、今後日本において移民受け入れについて議論されるうえでもヒントになり得る、欧州で現在進行中の三つの課題を挙げたい。
 
まず、「誰を市民(シティズン)と定義するのか」。これまで市民とは、国家という枠組みの中で考えられてきた概念だが、グローバリゼーションの進展で人の移動が頻繁になっている今日において、「市民=国籍保持者」と一元的に捉えることは困難だ。たとえば、二重市民権(外国籍を持つ移民夫婦の間に生まれた子どもに、出生国の市民権も与えられる場合等)を持つ人々が増加し、またEUのように超国家的な市民権も創設されるなど、事態は複雑化している。市民/非市民の境界線は、どう引くべきだろうか?
 
次に、「どこまで市民権(シティズンシップ)を認めるのか」。先に述べたとおり、多重市民権が発展し、市民という概念が複雑化している現在、「誰にどういった経済的・社会的・政治的権利が付与されるべきか」という問題が未解決のまま残されている。ここでは、誰もが普遍的に持っているとされる「人権」との関係も論点となる。日本における外国籍の人々への参政権付与をめぐる議論にも繋がるポイントだろう。
 
そして、「民族的・文化的マイノリティをどう社会に包摂(インクルージョン)していくのか」。この課題は、多文化社会において重要であると同時に、複数のジレンマを含んでいる。たとえば、国家としての統一性を保持しつつ、マイノリティのアイデンティティ(たとえば母語など)を維持するためにどうバランスを取るべきか。また、彼らの権利を守るために、分離/統合どちらの教育プログラムが適当なのか(または中間策があるのか)など、欧州各国で模索が続けられている。
 
日本では、労働力確保という文脈で「移民受け入れ」が話題になることが多いが、上に挙げたとおり、シティズンシップ、社会的包摂という観点から整理されるべき課題は山積している。日本も近い将来直面するであろう移民問題に、欧州が今後どのようなアプローチを取っていくのか注視していきたい。
 
**********
 

【修士論文】7つのリサーチ・ステップと便利なWebサービス

 
3月も中盤に差し掛かり、イギリスの暗くて寒い冬も終わろうとしています(・・・と信じたい)。
キャンパス内で感じられる春の訪れ。早く暖かくならないかな~!
 
spring_campus
さて、先日、教育学部のライブラリアン(司書さん)が、修士論文執筆に必要なリサーチプロセスについてセミナーでプレゼンしてくれました。今後、リサーチを進めるにあたって役立つ情報がいくつかあったので、忘れないうちに箇条書きでまとめておきます。
 
1. Identify
・自分が調べたいトピックについて、問いを立てる(=リサーチ・クエスチョン)。
・どんな情報を集める必要があるか、整理する。
 
2. Contextualise
・自分のリサーチのコンテクスト(文脈)を把握する。
→トピック全体の大きな絵を思い浮かべ、自分のリサーチがどのその中でどこに位置するのか?
・リサーチの目的/文脈/情報源/限界について整理する。
 
3. Plan
・どんな方法で情報を検索するのか、何のリソースが入手可能なのかを把握する。
・しっかりとした情報収集のプランを立てておくことは、長い目で見れば時間の節約につながる。
・自分のリサーチ・クエスチョンを、いくつかの小さい質問に分解する。
・各質問の重要な単語(key terms)の類義語や別の表現で言い換えた言葉のリストを作る。
(わたしの例:community involvement / service learning / volunteeringなど)
 
4. Explore
・偏りなく様々なデータベース、検索エンジンから情報を収集する。
①大学図書館のデータベース(Library catalogues)
 
②学際的なリソース(Multidisciplinary resources)
- Scopus(スコーパス):世界最大級の抄録・引用文献データベース
- Web of Science:自然科学、社会科学、人文科学分野の論文データベース
- Google Scholar:細かい検索はできないが、キーワードだけで簡単に調べたい時には便利。
 
③主題別に特定したリソース(Subject specific resources)
- たとえば、教育学の分野であればERIC(Education Resources Information Center)の書誌データベース(bibliographic databases)など。
 
④専門家のリソース(Specialist resources)
- 統計資料、一次資料、新聞など。
 
⑤Web 2.0(参考文献としては使えないが、情報収集の手段として)
- 自分の研究分野に関連するブログ
- 関連団体のTwitter、Facebook
- Addict-o-matic(ソーシャル・メディアのリンクをキーワードで検索できるサイト)
 
5. Gather
・複数ワード検索などをうまく利用する。
・多くの書誌データベースでは(サインインすれば)自分の検索履歴が残せるので、それを活用する。
 
6. Evaluate
・自分が集めた資料はリサーチ・トピックに関連性があるか?
・引用の数が少なすぎたり多すぎたりしていないか?
・偏りなく、幅広いリソースから情報を集めたか?
 
7. Organise
・アプリを利用して、集めたリソースを記録しておく(どこから取った情報なのか明確にしておく)。
- EVERNOTE
- Google Drive
 
・引用文献管理ソフトウェア(Reference management software)を活用する(これすごく便利!!
- EndNote(←うちの大学のオススメ)
- Zotero
- MENDEREY
 
・・・ざっとこんな感じです。手当たり次第に文献を検索してあとで迷子にならないように、ウェブサービスを上手く活用していきたいと思います!